しょうがねぇな・・・



「ただいまぁ・・・・」





少し肌寒くなった秋風が体をすり抜ける中、

あかねは時たま体を震わせながら、ようやく家へと着いた

今日の夕飯は何かな・・・・・早く温かいお風呂に入ってあったまりたいな・・・・

そんな事を考えながら玄関で靴を脱ぐ

・・・・・・・・・・・・・・・が。

やがて嫌な違和感があかねを襲った



「・・・・・・・変ね、静か過ぎるわ。。」



かすみの台所で夕飯の支度をしている音、早雲と玄馬の酒を飲んでいる時の声・・・・そして八宝菜のいやしい笑い声・・・

それら全て、今日に限って聞こえてこない

あかねは急いで家に上がり、居間へと進んだ








がらっと勢いよく襖を開けると、乱馬が1人ごろ寝をしながらテレビを見ていた

彼1人以外の人影はどこにも見えない



「お、今帰ったのか?」



ようやく気付いたように、顔だけあかねの方を向いてぶっきらぼうに聞く



「う、うん。ただいま・・・・・・。
 あの・・・・他の人は?」



少し心配そうに、恐る恐る核心をついた質問をするあかね

何か・・・・何かすごいマズイ予感がする・・・・

そんな不安が伝わったのか、結果は意地悪なことに想像した通りの答えが返ってきた



「あぁ・・・・・かすみさんは知り合いの人が急に倒れたっつってさっき急いで出ちまった
 なびきは元々ダチんとこに泊まるっつってたし・・・・・
 親父とおじさんは「チャンスだ!早乙女君!」「では我らは・・・・」なんっつってどっか行っちまったよ」

「あの・・・・おじいさんは・・・・・・・」

「あのエロじじいがこの時間家にいると思うか?
 いつもの仕事ってやつにでも行ったんだろ」



その瞬間、背中に流れる冷や汗と共にあかねの頭に浮かぶ、八宝菜のあの声・・・

「大漁じゃー♪大漁じゃー♪」



ダメダメ、忘れなきゃというように、頭を横に振るあかね

そして同時にはっと、とんでもないことに気がついた

「ね、ねぇ・・・・・・じゃあ今夜は・・・・」

「そ。俺らだけ」




---------シーン---------





乱馬の一言を最後に、一気に静まり返る居間

少しの間、気まずい雰囲気が流れる

テレビから流れる音だけが、この部屋を支配しているようだった

と、料理番組が始まったのを見て、あかねがこれ幸いと思い出したように口を開く





「ね、ねぇ。そういえば今日の夕飯どうすんの?かすみお姉ちゃんの作りおき、見なかったけど・・・」

「あ、あぁ。そういやーかすみさん、作る前に出ちまったみたいだから・・・・しかもあの様子だと当分帰ってこねぇぞ」

「えー?!・・・・・・・・仕方ない、今日は右京の店でも行ってみよっか」

「おっ、それ乗った♪・・・・・じゃあお言葉に甘えて・・・・・」



んっとあかねに手を差し出し、何かをねだるような顔つきであかねを見る乱馬

この男は・・・・・と、呆れつつも少し冷ややかな目で、今度はあかねが乱馬を見る



「・・・言っとくけど、私おごれるほどのお金持ち合わせてないわよ?」

「な゛っ・・・・・・」



ずばりと言われ、乱馬はたじたじになる

そして止めを刺すさすようにあかねが言った





「大体ねぇ、あんたいっつも私に払わせてんだから、たまにはそっちが払ってくれてもいいでしょっ」

「けっ、この俺が月末にお好み焼きを買えるほどのこずかい持ってる訳ねぇーだろっ」

「えっ、一銭も?!」

「一銭も。」



この状況でも尚、ふんぞり返る乱馬に、あかねは再び呆れるしかなかった

あかねの金でもせいぜい買えるのは一人前

1人前を2人で・・・・しかも大喰らいの乱馬がいては更に厳しいだろう

2人に残った道は1つしかなかった







「いいわ、私が作る」

「・・・・・・・・・は?!」

「だってしょうがないじゃない、食べない訳にも行かないし・・・・・・
 2人分なら私だって何とか・・・・・・」



さっきの雰囲気とは嘘のようにめらめらと気を燃やすあかね

まるで彼女を止めることは不可能のように

と、今度は逆に乱馬の背中に冷や汗が流れてきた





「ちょ、ちょっと待て!
 数の問題じゃなくて・・・・・・・・その・・・味の保障が・・・・・・」

「何よっ、私の作る料理じゃ嫌だっての?!」

「そうじゃねぇっ、ただ俺は自分の体を案じてだな・・・・・・・・」

「・・!!乱馬の・・・・乱馬のバっ・・・・・・・・」



ひゅっと拳が自分に向かってくる気配を感じ、

来るべきあかねの鉄拳に備えて、ささっと構えを取る乱馬

・・・・・・・・・・が、いくらまってもその衝撃はこない

そっと構えを少し崩して見てみると、あかねが腕を抑えながらうずくまっていた

何が痛いのかは分からないが、相当痛いらしく、我慢強いあかねでもなかなか顔を上げる事が出来ないらしい





「お、おい・・・・・」



そろり、そろりと近付きながら、様子をみるとあかねの右腕に包帯が巻かれている



「どうししたんだよ・・・・・・この腕・・・」

「な、何でもない・・・・わよ。こんなの・・・・・・」



下から必死に声を搾り出すように話すあかね

その声はいかにも弱弱しかった

「何でもねぇっことねぇだろ、そんなに痛がってんだから・・・・」

「痛くなんかなっ・・・・・・・!!」



きっと顔を上げてみても、やはり痛みが勝って再び顔をしかめてしまう





「・・・おめぇ、ほんと素直じゃねぇなー・・・・・」

「・・・・・・・」



痛みに耐えてるせいなのか、声が出ないあかね

するとふーっとため息をつきながら、乱馬がポツンと一言漏らした







「しょうがねぇな・・・・・ったく・・・・」

「え・・・?」





やれやれとでも言うように立つと、乱馬はあかねの頭にぽんっと手を乗せて

「待ってろ、今夜は俺が特別に飯作ってやっから」

と、一言いい残して台所へと消えていった

訳の分からないまま、料理をしているらしい乱馬を見つめるあかね

傷はまだずきずきと痛みを発しているけれど、心臓ではドキドキといつもより早く鼓動が打つ

たまに聞こえるジュっという何かを炒める音が聞こえる部屋で、あかねは止まらないドキドキ感と共にひたすら待っていた







「ほら、いちよ飯になったぜ」

それから数十分後、皿を2つ持った乱馬が台所から出てきた

どうやらありあわせで炒飯ならぬものを作ったらしい





「あんま自信はねぇけど、まぁおめぇのやつよりは食えるもんになってるはずだな」

「な、なによ!そんなの食べてみないと分かんないじゃない!」

「じゃあ食ってみろよ」

「えぇ、食べるわよっ」



素直じゃないって分かっているけど、ここまで自分の気持ちを表現出来ないことに、

あかねは少なからず自分自身にショックを受けていた。

ほんとは感謝の気持ちでいっぱいなのに・・・・・嬉しくて仕方が無いはずなのに・・・・・

さっきにも増して重くなった心をなんとか持ち上げながら、ようやく一口目を含む







「・・・・・おい・・・しい・・・」



不思議と思ったことがそのまま言葉として出た

こんなにすっきりした気分は久々かもしれない

はっと気がついてから乱馬の方を見ると「当たり前だ」と、顔に書いてあるような顔つきである

そしてあかねの顔を見るや否や、続いて乱馬も食べ始めた



「うん、旨い。やっぱり俺が作って正解だったな」



満足げな乱馬の表情

どうやら相当うまくいったらしい





「・・・・・・炒飯なんていつ作れるようになったの?」

「そうだな・・・・・・まぁ親父と修行している時は金がすぐなくなっちまったから、たまにバイトしてたからな。
 多分そん時だろ。」

「バイト?!あんたがバイトしてたの?!」

「・・・・・んだよ。しちゃ悪ぃのかよ。。」

「いや、なんか話聞いてると泥棒とか・・・・そういうのばっかりだと・・・・・」

「・・・・・おめぇなぁ・・・・」



少しむっとする乱馬だが、あかねの言ったこともまた事実

否定したくてもそれは少し無理があった

あかね自身もそのことに気がついたらしく、自然とクスクスと笑い始める





「な、なんだよ!」

「ふふっ♪だってあんた、いつもならすぐ否定するのにしないんだもん♪
 よっぽど図星だったんだ?」

「そ、そんなことねぇよっ///」



あーだ、こーだと必死に言い訳をする乱馬

が、今となっては「言い訳」ということさえもあかねに見破られている

すると笑いながら、あかねが少し小さな声で呟いた







「ありがとう、乱馬」

「・・・・・へ?」









ぽかんと口を開けっぱなしにしてあかねを見つめる

あかねの方は相変わらずにこにこしていた





「・・・・あの、今なんて・・・・・」

「さぁ?同じことは二度も言わないわよ」

「な゛っ・・・・・・」

「はい、じゃあ御馳走様v後片付けよろしくね♪」

「ちょ、ちょっと待てよ!作った上にまた俺が片付けんのか?!」

「だってあんたさっき言ったじゃない。「しょうがないなっ」って。
 私、まだこの怪我治ってないんですけど?」



ずいっと右腕を差し出して乱馬に見せる

あかねの顔は少し意地悪そうに笑いつつも、とても嬉しそうだった

この両方を見せられては乱馬だってお手上げになっても仕方が無い

再びぼそっと





「しょうがねぇな・・・・・」



と言いながら、器用に皿を持ちながら台所へ消えていった

そしてその俺の顔を見たあかねがまた、クスクスと笑い始める







-------------------「しょうがねぇな」

----------------------------------どんなに文句を言ったって

------------------------------------------俺の嬉しそうな顔はどうやっても隠せなかった



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*管理人コメント*
涼さんに50000hitのキリ番ゲットのお祝いにプレゼントしました
リクエストは「乱馬の料理」。
実はこれが初めてとなるリクエスト作品なんで、どうなるかかなり緊張して作ったんですけど・・・・
うーん、やっぱりリクエストは難しい(苦笑)
ただ、どうやっても自分の好きな形になっちゃうことに今回気付かされました。
日々勉強、日々挑戦です。
涼さん、キリ番ゲットおめでとうございましたv