いつものように





あかねと喧嘩した
もちろん、いつものようにすげぇくだらない事で
いや、今回は俺の方に否があるのかもしれねぇかもだけど・・・・・







そもそもあかねの料理作り(かすみさんは「花嫁修業」って言うんだけど)は今に始まった事じゃない。
そして、それに伴って俺があかねの料理から逃げるのも今に始まった事ではなかった。
今回の喧嘩もこの事が原因で勃発したんだ。

俺もいつもの事だと思って、まるで当たり前のように逃げる。
そしていつものように試食させようとあかねが俺の後を追っかけてくる。
いつ食わされるかもしれねぇ変なスリルに俺は少しドキドキしながら、逃げていた。
そう、いつものように・・・・・・








だが今回はいつもと違っていた。
俺が逃げながら振向きざまに

「誰がそんな得体のしれねぇもん食うかよ!!」

と、お決まりのセリフを言うと、決まってあかねが

「な、なによ!食べてみないと分からないじゃない!!」

と言って、また追いかけてくる。



ここまではいつもと一緒だった。



が、俺が振向いたのと同時にあかねがぐいっと皿を向けてきたため、反射的に手で掃っちまったんだ。
その掃った手は見事皿にヒットし、皿はというと空中を数秒舞ってからやがてガシャンという嫌な音と共に砕け散った。
予想もしない展開に、俺とあかねはその皿を見つめながら呆然とする。
俺の頭の中はというと、どうあかねからの攻撃を避けるかとかどう言い訳しようか・・・・・そんな事で埋め尽くされていた。
どう出ようか考えた末、試しにあかねの方をちらっと見てみると・・・・・・・・・





--------------------------------------------え?






見るとあかねは今まで見たことがないぐらい無表情になっていた
怒る、悲しむ・・・・どの感情にも当てはまらないぐらい無表情に
今まで幾度となく喧嘩はしてきたけれど、その時には必ず感情を持ったあかねの顔があった
悲しそうな顔、困った顔、怒った顔・・・・・・・・・・・・


この時、俺はようやく自分の犯した罪の大きさを理解した
あかねに・・・・表情がない・・・・・
つまり・・・・・それだけショックが大きかったって事だよな
それでも俺は、理解してもそこからフォローする言葉が見つけられず、ただただ心の中で動揺していた
ようやく「あのさ・・・・」と言う言葉を出そうとした時、すでにあかねは皿や料理を片付けて、台所に戻ろうという所
結局俺はそのまま台所へ向かうあかねの後姿を見送るばかりで、何も声を掛けられずに終わった






少し経ってから気晴らしに外に出ると、まるで俺の事をやじるように心地の悪い蒸し暑さが俺を襲った
しかも今一番会いたくねぇ奴等が次々と出てきやがる


「早乙女乱馬!!ここで会ったが百年目、貴様を打ちのめし天道あかねとおさげの女は僕がもらうぞ!!」
「くぉら、乱馬!!この間はよくも決闘をすっぽかしてくれたな!ここで決着つけて、貴様を血祭りにしてやるぜ!!」
「シャンプー!!!何故おらとデートしてくれないだー!!シャーンプー!!!!」

この暑さのせいなのか、それともさっきの喧嘩が原因なのか
俺のイライラは頂点に達していた

「てめぇら・・・・・・・・間が悪すぎんだよっ!!!!」


どかっ、バキっ、ぐしゃ
1人一発づつ急所にくらわせ、終了。
今の俺にはこれで十分
イライラの分、いつもの倍力が入ったみてぇだ


「ったく・・・・毎度毎度こりねぇ奴等だな」


ん・・・・・?
こりない奴・・・・・・・・・・・・・?
いつもアイツを困らせて、泣かせて、無表情になるまでショックを与えちまったのは・・・・・・・?


「俺の事じゃねぇか・・・・・・・っいてっ」


気が付けば、いつ入ったのか生傷か3つ入っていた。
おそらく俺もあいつらに1人一発づつくらったのだろう。
傷の手当ても兼ねて、俺はさっそく家へと向かう。
が、その時も傷の痛みよりも、胸の中でぎりぎりと締め付けてくる何かの方がよっぽど痛かった。




「あら、乱馬君どうしたの?その傷」


家に帰ると、ちょうど玄関の掃除をしていたかすみさんが心配そうな顔つきで声を掛けてきた。
俺自身はあんまり酷い怪我とは感じてないんだけど、服が少しほつれて破けてたためだと思う。

「早く手当てしてお洋服も直してあげなきゃね」
「あ、大丈夫です。手当てぐらい自分で出来ますから」

変な作り笑いをしながら、そう伝えると


「そう・・・?じゃあ手当てしたらお洋服、持ってきてちょうだいね。」

かすみさんはまた少し、心配そうに俺の目を見ながら答えた。
その俺を見つめるかすみさんの目は、俺にとってまるですべてを見ているかのように感じ、また胸の中の何かが更にぎりっと締まった




家に入ると、無意識の内にあかねの姿を探してしまう。
が、居間にも道場にも・・・・そしてもちろん台所にもその姿はなかった。
おそらく自分の部屋にこもっているのだろう。
俺は最後に探しに来たこの道場で、そのままあぐらをかいてみた。



目を閉じると・・・・・
・・・・・・・すぐに頭に入ってくるのはやっぱりあかねとの喧嘩
そもそも、何でこんな事になってしまったのだろうか。
俺が料理から逃げるのは、当たり前
あかねだってそれは分かってたはずなんじゃねぇか?
そう。あれは事故だよ、事故
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、俺ばっか悪ぃ訳じゃ・・・


でも、心の中でそう思ったと同時に
再び頭の中で、無表情になったあかねが出てきた。
温かくも冷たくもない、本当にそこに「あかね」がいるかどうかも分からないぐらい無の感情を持ったあかね


「・・・・っいてっ」

再び胸を押さえる。




すると後ろから

「うしろがらあき。スキだらけ」

と、俺の頭を叩く聞き慣れたセリフが聞こえた。



「あんた、また外で怪我したんだってね。どうりで家にいないと思ったら。」

振向くと少し不機嫌且つ、呆れた様子のあかねがいた。



「・・・・・・からかいに来たんならあっち行けよな」

嬉しいのか、安心したのか、恥ずかしいのか。
俺は謝るべきのところをまた憎まれ口で返してしまう。
その上ぷいっと目線を外してしまった。
そんな俺にあかねはかなりむっとした表情を見せたが、
やがて

「そうね、からかいに来たのかも」
と、さらりと言い返した。

「な゛っ・・・・・・・・」

まさかの反応にぱくぱくと、口を開けてると

「これが終わったら行くわよ」
と、言いながら静かに救急箱を開け、消毒液とばんそうこを取り出した。

「な、何すんだよ・・・・」

これから何をしてくれるかなんて頭では分かっていても、本人の口から聞きたくてわざと聞く。

「見て分かんないの?手当てよ!手・当・て!!
 かすみお姉ちゃんにあんたの手当て頼まれたんだもん、やるしかないでしょ?」

ほら見せて、と後に加えて俺が有無も言う暇もないまま、あかねの手当ては進んだ。



あかねに手当てをしてもらったことは何度もある。
こいつ特有の不器用さがはっきりする場でもあるけど、同時に気が付くのが「あかねの手当ての時の優しさ」。
どんなに怒っていても、手当てをする時だけは慎重に、そして優しくしてくれる。
たまに例外もあるけど、そん時は半分冗談も混じったりしてて。
自分が怪我した時は、他人に心配掛けまいと、怪我人のくせに無理しながら相手の事まで心配しちまうくせに。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあアイツを優しくしてやるのは誰なんだよ。




そんな疑問が心の奥から囁かれる。
誰かだって?
分かってる。そいつが誰かなんて分かってるよ。
だから・・・・・だからこんなに胸が痛いんだろ。
心の中にいる自分と言い合いをしながら、ふと、顔を上げる。
あかねはと言うと、丁度手当てを終えたようだった。



「はい、出来たわよ。」
「・・・あ、お、おぅ。。」
「・・・・んもう、礼の1つぐらい言いなさいよねっ。ったく・・・・・」
「な゛・・・//」


もちろんあかねの言ってる事は的を得てるんだと思うけど、
つい、いつもの癖でもう一言こっちも憎まれ口を叩こうとしてしまう。
だけどそれは、コイツ自身に止められてしまった。



ぺた


「へ?」
「あんまり・・・・・怪我しないでよ。」


顔に貼られたばんそうこの上にそっと置くように手を置くあかね
その目は俺でも分かるぐらい、悲しげな雰囲気を漂わせていた。
俺はというと、心臓が跳ね上がりそうで、顔色を変えないよう必死になっていた。


少しして

「・・・っ///ほら、あんまり怪我されると手当てするこっちの身にもなってもらわないと!!//」
ばっとその手を離そうとしたが、





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マタ、優シクサレルダケデオワリカ・・・・・・?




再び聞こえるこの声に押される形で、もはや俺に迷いはなかった。
離そうとするあかねの手を再び握り、同時に自分の胸元へと引き寄せる。
あかねはびっくりした様子のまま、そのまま俺の胸元に倒れこんだ。


「ちょ、ちょ、らん・・・・・・・」
「悪かった!!!!!!」
「・・・・え?」
「俺・・・・・まだおめぇにちゃんと謝ってなかったよな。だから・・・・・その・・・・・」

ようやくあかねを抱き起こし、お互いを向かい合わせるような体制にする。
あかねは依然、びっくりした様子のままだ。


「謝ってないって・・・・・・料理のこと?」
「・・・・・あぁ。
その・・・・・・俺どうしたらいいか分かんねぇけど・・・・・今精一杯出来るのはこれしかないんじゃない・・・か・・と。」

言うなり、俺は再びあかねをぎゅっと抱きしめた。
そして

「ほんと・・・・・悪ぃことしたな。」
そう言いながら、また強く抱きしめる。


「・・・・・・・分かったわよ。もう怒って・・・・ないから・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・ だから・・・・もうちょっとこうしてても・・・・いい?//////」

下から見上げてくるあかねの赤い顔
俺の答えはもちろんYES


「べ、別に・・・・・・かまわないけど・・・・・・・/////////」
あまりにも可愛いから、またいつものようにぷいっと顔をそらす。
すると、あかねの顔がまたいつものように少しむっとした表情になった。



「別にかまわないってなによ!まるで立場が逆転してるみたいじゃない!」
「ん、んだよー!おめぇがこのままでもいいか?って頼んできたから答えてやっただけだろー!!///////」
「・・・!!/////////あんたよくもそうぬけぬけとっ・・・・大っ嫌い!!!」
「おぅー!そのセリフそのままそっちに返してやらぁ!!」


ぱっと同時に離れると、くるりと向きを変えてお互い別の方向に歩き出す。
・・・・んだよあかねの野郎ー!!可愛くねぇな!!!
せっかく人が下手に出てやったっつー・・・・・・・・・・・・・ん?


気が付くと、逆の方向に歩いていたはずのあかねが隣りに歩いていた。
あ、そっか。
道場の中に入口は1つしかねぇんだから逆に歩いてもいつかは同じ方向に進んじまう。
あかねもそれに気が付いたようで、こちらをちらりと観てきた。



「・・・・・ついてくんなよ」
「・・・・・それはこっちのセリフよ」

再びバチバチと視線を交わす。
こ、このアマ・・・・・マジ可愛く・・・・・


「でも、またこうやって、いつもみたいに喧嘩できるようになって・・・良かったね」



   え?



   な、なんでこいつこんなに嬉しそうなんだ?



   俺ら、今喧嘩・・・・してるんだろ?



   なのにそんな笑顔急に出されたら・・・・・・・・・負けちまうじゃねぇか//////




背中ごしに見えたあかねの笑顔
そうだよ、こいつはいつも不意打ちかけてくんだよな。
俺がさっきみたいにどんなに勇気を出して頑張っても、結局はその攻撃
油断も隙もあったもんじゃねぇ
今度は俺がお前にお見舞してやるから覚悟しろよ!
・・・・・・・・・・その笑顔さえなかったら俺だっていくらでも・・・・・!!!!



あかねの背中を目で見送りながら、そんなことを必死に心の中で叫ぶ俺
もちろん、次の結果だって容易に想像がつくくせに
>あー負けました。負けましたよ。
完全にぬけられないくらい、はまっちまったんだから





いつもとは少し違う喧嘩でも、
結果はいつもと一緒
それが俺達の喧嘩の特徴ともいえる。











早乙女乱馬  16歳
現在天道あかねに連敗中






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*管理人コメント*
「宵のムラサメ」の管理人永野刹那さんに200000hitのお祝いとして差し上げましたv
タイトルの「いつものように」。
何度も何度もつまづきながらの作品なだけに、完成した時の感動はいつもの倍だったがふと気付く。。
「・・・・・・・・・・・これ、いつもの2人か?」Σ(=□=)
・・・にも関らず、せちゅなさんはもったいないぐらいのお言葉をくれて・・・・・
あぁ・・・ほんとサイトやってて良かった、小説書いてて良かったと改めて実感v
ホンマええ方でいらっしゃいますよ!!せちゅなさんは(T∀T)
改めて200000hitおめでとうございました☆