おかえり




俺と親父はたまに長期の修行に出ることがある。
無論、それは強制ではなく俺も承諾してでのこと。


”誰よりも強くなりたい”

この夢を叶えるには修行しかない、そう分かってるつもりだ。
ただ・・・・・・ふと、修行の合間に空を見上げた時、まず1番初めに頭に浮かぶのがアイツなんだ

「女なんか修行に連れて行けっか!」

なんてかっこよく言っても、実際は俺の中でいつも連れてきちまってんだよな

(ほんと・・・・かっこ悪ぃじゃねぇか・・・・・・俺・・・)

そんな自分と向き合うたびに、情けなくてしょうがない
きっと今の俺、そうとう酷い顔してんだろうな・・・・・


「おい乱馬!何をぼさっとしとるか!さっさと水くみ行って来い!」
「・・・・・・・」
「これ、乱馬!聞いとんのか!」
「あ?あぁ・・・わぁ〜ったよ。行ってくりゃいいんだろ、行ってくれば」
「乱馬・・・・・・・・・」






バケツを手に川へ向かって木から木へ飛び移る
しかしこんな時でも胸がぎりぎりと締め付けられるなんて・・・・・
・・・けっ
これじゃ修行になんねぇじゃねぇか。。。
・・・・・・こんな思いするんだったら・・・・・・来るんじゃなかったぜ・・・・
ようやく水をくみ終わり、戻って来ると親父が珍しく真剣な顔をして、何やら考え事をしていた。

「親父。ほら、くんできてやったぜ」
「あぁ、ごくろうだったな」
「それよりどうしたんだよ、珍しくマジな顔なんかして・・・・」

その質問に対し、親父は俺をちらっと見ると

「・・・・・・・・」

何も答えず更に難しそうな顔をした
そして少し経ってからおもむろに口を開けると、

「乱馬、今回の修行は今日にて終わりとする。明日の朝、ここを出るぞ。よいな」
「え・・・・」

俺に一言も出す隙間もくれないまま、話は終わってしまった。
予想外の出来事に口をぱくぱくさせるしか出来なかった俺
それもそのはず、いつもより2週間も早まったんだ。
何かあったとしか思えないだろ?

「分かったらさっさと寝ろ。帰りの支度も今日中に済ませとくのだぞ」
「あ、あぁ・・・・・・・」






そして次の日の朝
俺と親父は山を降りた。
「親父・・・・何考えてんだよ。こんなに早めるなんて」
「そんな事、自分の胸に手を当ててよく考えてみぃ!」
「は?な、何で俺が・・・」
「心ここにあらずの状態のお前に、これ以上修行させてもしょうがないわ」
「!」

(ばれて・・・たのか?)



それから俺も親父も家に着くまでお互い一言も口を開かなかった。
俺は気まずいっていうのもあったんだけど・・・・親父は相変わらず、沈黙を守るだけのようだった。



そしてその日の午後、ようやく天道家に到着する



がらがら・・・・

「ただいまー・・・・」
「あら、乱馬君、早乙女のおじさま。お帰りなさい。今回は早かったのねぇ〜。」

まず帰って最初に会ったのはなびきだった。
やはり早い帰宅に少々驚いているようである

「なびき君、天道君はいるかね?」
「お父さん?お父さんなら今1人で道場にいると思うけど・・・」
「そうか・・・・・・・」

そう言うと親父はさっさと2階に上がってしまった。

「ねぇ乱馬君、おじさま何かあったの?いつもと雰囲気違うみたいだけど・・・」
「さぁな。親父もたまにはそういう時もあんだろ」
「ふ〜ん・・・」

そんななびきを後目に、俺も2階へと後にした。





・・・ったく・・・あのハゲ親父何考えてやがんだ?
あそこまで普段と違うとこっちも戸惑っちまうじゃねぇか・・・・・
ぶつぶつ言いながらやっと階段を上りきったその時、ふいに何かとぶつかってしまった。

「きゃっ」
「・・・って!」

顔を上げるとそこには会いたくて・・・話したくて・・・喧嘩したくてどうしようもなかったアイツ・・・・あかねが立っていた。
ぱちっと視線が合った瞬間、ようやく俺だということが分かったらしく、いつもより大きくなっている目が驚きを隠せないのを物語っている。

「よっ・・・」

俺がそう話し掛けると、あかねは少しびくっと身体を動かせてから、やがて俺でも分かるくらいすごく嬉しそうな顔を見せた。

「おかえり・・・・乱馬」
「・・・・っ////」

その時の顔が一瞬にして頭に焼き付いて、俺の体温を一気に上げてしまった。

「今回は早かったんだね?何かあったの?」
「べ、別にっ///たまにはいいだろっ//」

ぷいっと顔を背けると、あかねもむっとした表情を見せ

「まったく・・久々に会ったんだから少しは優しくしてくれたっていいでしょっ。相変わらずなんだからっ」

と、言い残して下に降りていってしまった。
そんなあかねを俺は横目で見送り、思わず深くため息をつく

(・・・・ったくっ/////俺もまだまだ修行が足りねぇなっっ/////)

「おかえり」の一言で、背負ってた荷物が軽く感じ、疲れもふっとんだ気がした。
これも修行をしていたからこそ味わえるのかもしれねぇ・・・・・・。
・・・・・それからというもの、少しだけ修行が楽しみになった。
あの「おかえり」の言葉と笑ってるあかねの顔がまた見れるかもしれない・・・なんて単純だけどさ。
と、いつ下に降りたのか下から親父が2階へ上がってきた。

「おい乱馬!今日はご馳走だそうだ!早く降りて来い!」
「ご馳走?今日は誰かの誕生日だったっけか?」
「バカ者!お前とあかね君のこれからを祝ってだ!」
「な、なんで俺とあかねが・・・・/////」
「ふん、良く言いおる♪お前の修行の時の様子を見れば一目瞭然!父を侮るではない!」
「〜!!!///」
「天道君にも全てを話しといた!はっはっは!これで我が家も安泰・・・」
「その言葉、何度も聞いて耳がタコになるぜ!このタコ親父〜!!」

どーんっ


妙に冴えてる親父に、俺はたまらず蹴り飛ばした

「・・・どんな大人になろうとも、あのタコ親父のような奴だけにはなりたくねぇぜ・・・・」

そう、つぶやくと、やがて下からかすみさんに呼ばれるのが聞こえて、俺も下へと降りた。
と、あかねの隣りに座った時、はたと一瞬だけ再び視線が重なった。

「おかえり、乱馬」
「・・・さっきも聞いたぜ。それ」
「でもあんた言ってないじゃない「ただいま」って」

その一言に言葉を返せなくなってしまったが、、

「・・・・ただいま///」
「よろしい♪」

少し経ってから小さな声で、答える。
まるで1本とられてしまったような気もしたが、あかねの嬉しそうな顔をみてそれ以上は何も言えなくなってしまった。






なぁ、あかね。。やっぱりお前を修行には連れて行けねぇや・・・。
だって連れてっちまったら、帰ってきた時のお前の・・・その・・・




--------------------笑顔が見れなくなっちまうかもしれねぇから・・な・・・




---------------------------------------------------------------------------------
*管理人コメント*
「花ざかり」の管理人幻桜みちさんに復活記念に贈らせて頂きましたv
やっぱり乱馬君があかねちゃんを修行に連れて行こうとしないのはプライドとか料理がマOイとか(笑)だけじゃない気がしたんです^^
今回は・・・それがたまたま「おかえりなさい」の時の笑顔だったんですけど♪
みちさん、復活本当におめでとうございました☆