信じる事






「乱馬のバカっあんたなんてもう知らないっ」

「あ〜!こっちだっておめぇみてぇな女知らねぇょ!」



きっとお互いを睨むと二人は別方向を向いて廊下を歩き出した。
「まったく・・朝からよくやること・・・」と、なびきが呆れた表情を見せる中、静かな朝が過ぎていった。







事の始まりは極めて単純
朝ご飯の時、あかねが乱馬に対して「ご飯にお味噌汁を混ぜるのは邪道よっ」と何気なく言ったのが全ての始まりだった。
だがそれに対して乱馬の答えは「おめぇだって納豆をご飯にかけないで、そのまま食うなんて邪道だろっ」とのこと。
そこからどんどん広がって、ついには大喧嘩にまで発展してしまったのだ。
もちろん、その後の登校も別々で、席も隣同士だというのに一切口を聞かない。
その間、乱馬は大介・ひろしに、あかねはさゆりとゆかに

「乱馬、お前らなー・・・」
「あかね、あんたねらー・・・」
「「どうしてそんなことぐらいでここまて喧嘩できるんだ?/の?」」

とまで言われたが、それでも二人は「あっちが悪い」の一点張りで決して口をきこうとはしなかった。





-------まったく、みーんな乱馬が悪いのよっ!あんなことで意地張っちゃって!・・・でも。。

あかねは改めて今朝の経緯を思い出すと、だんだん自分にも非があるのではと思うようになってきた。



------------------そんなこと・・・・私も同じじゃない・・・・・・・・。




「はぁ〜・・・・・・・・」


なんでこんなバカな喧嘩しちゃったんだろ・・・・・あかねは後悔の念に押され、思わず深いため息を出していた。
謝ろうか・・・・
そうは思っても、それが簡単に出来る自分ではないということは、あかねが自信が1番よく知っている。
素直じゃない自分を、こんなにも嫌悪したのは久々だった。

------------ちょっと気晴らしに屋上でも行ってみよ・・・・・






「うわぁ〜・・・・・」

気が付けば夕方になり、屋上から望む広い空と太陽は、赤く美しく輝いていた。
そして心地よい風があかねを包んでくる。
あかねは思わずフェンスのギリギリまで近づいて町並みや、空を眺めた。


「夕方の屋上ってこんなに綺麗なものが見れるんだ〜・・・・」

目を輝かせながら見入るあかね。
だがギシギシっという音共に、それは恐怖へと変わった。
腐っていたのか、それとも錆付いてしまったのか、あかねが寄り掛かっていたフェンスが鈍い音共にはずれてしまったのである。


「きゃあああっ・・・・・・」


------だめ!地面に叩き付けられるっ・・・・・・・・



そう思った時だった。
が、目を開けると自分の体は宙に浮いている。
はっと上を向くと、自分の手をしっかりと掴んでいる人がいた。



「乱・・・馬・・・?」
「ったく・・・・何やってんだおめー?!俺が来なかったら地面に叩き付けられて怪我ってレベルじゃ済まなかったぞ?!」
「うん・・・・・・あの・・・でも、どうしてここ・・・に?」
「い、今はそんな事言ってる場合じゃないだろっ////それより・・・・」



乱馬は今の置かれている状況を冷静に考えた。
状況と言うのは、乱馬があかねの手を寸前で掴んだものの、乱馬が飛び降りてあかねを掴み、屋上のまだ壊れていないフェンスに片手で支えているという状態。
つまり2人共乱馬の片手1本で支えられている状況に陥っていた。


「見ての通りこんな状況だ。しかも俺の片手っつー方が聞き手じゃねぇからお前も俺も持ち上げらんねぇ。ってことはだ・・・・」
「うん・・・・」
「あそこに結構高い木があるだろ?そこにお前を抱えてジャンプする。で、そのまま木を使って降りるっつー訳だな」



-----え?

不安になりながらも、あかねはその木というのを目で探した。
しかし近くに木らしいもの1本もなく、あるとしてもここから10mは離れているであろう、少し高い木があるだけだった。


「ね、ねぇ乱馬・・・・木ってまさか・・・・あれ?」
「あぁ、あれしかねぇだろ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!いくら乱馬でもあの距離はムリよ!それより・・・・ほら!他の人呼んで助けてもらった方が・・・」
「バーカっ、こんな時間に屋上なんて来る奴なんかいねぇーよっ」
「でも・・・・」
「お前、俺を信じられねーのかよ?」
「え・・・・・・・」



まっすぐあかねの目に視線を降ろす乱馬に、あかねは心臓がバクバクしてくるのが分かった。
と、同時に自分の中にあったすべての不安を、取り除かれた気もする。


「・・・・分かった。乱馬を信じる。乱馬に私の全部を預ける。
 だから・・・・・・・手、離さないでね?」
「・・・・あぁ、まかせろっ!・・・・よし、じゃああかね、しっかり掴まっていろよ!」



そう言ったと同時に、乱馬はフェンスを掴んでいた手を離し、壁を蹴った。


「きゃっ」


乱馬に引っ張られる形であかねも空へと浮く。
だが気が付けば乱馬にお姫様抱っこされている状態になっていた。
屋上の高さよりも更に高くなっている場所を飛んでいる自分、
だがそんな事よりも、自分を抱きかかえている許婚に、あかねは心から自分を任せられる気がした。


「よしっ、届く!」


乱馬はそのまま木に着地し、反動でゆっくりと下に降りていった。


「ふ〜・・・・大丈夫か、あかね」


あかねを下ろす乱馬、だがその顔は疲れていながらもどこか優しい感じがした。


「う、うん・・・・ありがと・・・」



自分が落ちてから、乱馬に助けてもらい、そして今地面を踏んだ時間は短いようでとても長い気がした。
おまけに気分がとても和んでいる、今なら・・・・
あかねは意を決して言った。

「あのね、乱馬。その・・・・・・今朝はゴメンね、あんなことで言い争って・・・・。
 別に好きなものは好きなんだし、それは乱馬の勝手で・・・えっとー・・・・」


きょとんとあかねを見た乱馬だったが、同時ににっと笑い出した。


「バーカ!今更もう気にするなっつーの!・・・・それにほら、さっきもう「仲直り」しただろ?」
「え?・・・・いつ?」
「だってお前、さっき俺を信じてくれたじゃ・・・・ねぇか・・・////
 ・・・・喧嘩して憎い奴にそんな命預けるようなこと、出来ねぇだろ?」
「・・・・・・/////////」
「まぁ俺もむきになってたからな。その・・・・・わ、悪かったよ//////」
「ううん。だってもう・・・・「仲直り」・・・したもんね♪」


ちょっと涙ぐみながらにこっと微笑かけるあかねに乱馬は視線を合わせられなかった。
が、当のあかねはそれにまったく気付く様子もなく、ふと、少し疑問に抱いていたことを口にした。


「ねぇ乱馬、そういえばどうしてあんなにタイミング良く来れたの?」
「げっ・・///・・・・そ、そんな細かいことはいいじゃねぇーか!・・・おっ、もうこんな時間だ!さー帰ろ♪帰ろ♪」
「こらー!!!!はぐらかすなー!!!!!」



逃げる乱馬に追うあかね。
その後ろには春と共に伸びた夕焼けが赤く美しく輝いていた。




----------お前と仲直りしようと思って、追っかけてたなんて・・・・・言える訳ねーよ・・・な?








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「Tenderness」の管理人優羅さんに相互記念に差し上げたものですv
お互いを信じちゃえば「喧嘩」なんておしまいv
しかも命を預けるなんてことになったら、尚更・・・ね♪
だって心から信じないと、命なんて預けられないでしょう?