日の出






「うわっ寒みっ」

やけに早く目が覚めた俺は、隣で寝ているパンダを横切り、一応みんなを起こさないようにそ〜っと下へ降りていった。
やっぱり、朝早く起きたからには朝稽古をするしかない。
これも武闘家にとっては当たり前みたいなもんだけど、たまにめんどくせーと思ったことはある。



----------------・・・今日ぐらいさぼっちまうかな・・・



そんな言葉が頭によぎった直後だった。
見ると誰もいないはずの庭に誰かがいる。
あれは・・・・・・もしかして・・・・・・・・。
ある人物の名前が頭に浮かんだ途端俺の足はまっすぐ玄関の方に向かっていた。




がらがらがら・・・・


玄関を開けると、そいつはやっぱりいた。
お?まだ俺には気づいてねぇみたいだな。・・・よぉ〜し・・・・



「わっっっ」
「きゃぁぁっ」
「ははー!弱虫、弱虫♪」
「ら、乱馬?!どうしてこんな早いのよっ」
「別に理由はねぇけど・・・まぁ起きちまったからには稽古でもすっかなって・・・」
「ふ〜ん・・・・ね、じゃあ今から一緒に走らない?」
「いいけど、おめぇ俺の足引っ張んなよ?」


俺ははからかうように言った。
そうなるとあかねも負けじと言い返してきやがる。


「あんたこそ、私に置いていかれて惨めな思いしても知らないわよっ」
「おーっし、じゃあ勝負すっか?まぁ結果は見えてるけど♪」
「えぇー臨むところよ!じゃあゴールはあの見晴らしのいい丘ね!」



ったく・・・こんな朝っぱらから何やってんだ?俺達・・・・・。
ま、これも稽古の1つになるかな。


「よーい、どん!!!」


あかねの声で俺達は同時にスタートした。
もちろん俺はそんなに本気になんかやってないんだけど、あかねの方はいたって真剣そのもの。
まさに格闘しているようなもんだな、こりゃ。
そうこうしているうちに、俺は無言のマラソンを強いられることになっていた。




しばらくすると隣ではぁはぁ言っているあかねが少し苦しそうに口を開いた。


「あ、あんた・・・はぁ・・・・真・・剣・・・に・・・・はぁ・・・やってない・・でしょ?!」
「あー?・・・んなことねぇよ」
「う・・・嘘!・・・だ、だってあんたが本気で・・・はぁ・・・・走ったら・・・もっ・・・と・・・私と差が・・・ついてる・・・はず・・だ・・もん・・・・」
「そ、そんなのやってみねーと分かんねぇじゃん」


あかねの突っ込みに少しとまどっちまったが、当のあかねはまだ何かを言おうとしても、呼吸が乱れて上手くしゃべれないらしい。
ま、コイツ俺のペースに合わせようと最初っから無理してたみてぇだし、ムリねぇか・・・。


「もうっ・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・真剣・・・勝負・・・・な、・・なんだか・・・らっ・・・・・はぁ・・・・武闘家・・・なら・・・・・ちゃんっ・・・と・・・・やって・・・よ・・ねっ・・・・・」


一段と呼吸が乱れるあかね。
ばぁか、今本気出したらお前、ますます無理して走ろうとすんだろ。
ほんと素直じゃなくて、負けず嫌いなんだな・・・・ったく、こうなったら・・・・・



「・・・・あかね、お前先に行け」
「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・え?!」
「ったく、ほんとお前は素直じゃねぇなー。柄にもなく俺の事を気遣って勝負だっつーのに俺のペースに合わせてたんだろ?」
「・・・・・え?」
「なんだよ、違うのか?」
「だ、だって・・・・・」
「ま、どうせ気遣うんだったらもっと遅く走らせてくれよ、学校あるっつーのに今バテたらせっかく早起きしたのも無駄になっちまうからな」
「う、うん・・・・・・・・」


あかねはまだ納得出来ない顔をしてたみてぇだけど、同時に少し自分のペースを緩めた。
・・・・・まったく、世話の焼ける女だぜ・・・・・。




こうしてまた無言のうちに、いつのまにか勝負はなくなってしまった
まぁ俺がダメにしたようなもんだけど・・・・別に目的があった勝負でもないしな。
隣で走っている奴が自分のせいで倒れるなんて、それこそ見たくねぇし・・・・。
・・・・・・ん?・・・・あそこは・・・・・・

はっと気がつくと、いつのまにかゴールになるはずの丘が見えてきた。
ここの坂を登りきればやっと着く。
あかねはと言うと、さっきの俺のセリフからぴたっと俺のペースについていくようになっていた。
もちろん今の俺のペースはいつものあかねぐらいなんだけど・・・・・。


「ら、乱馬・・・・・もう・・・すぐだね」
「・・・お、おう」


さっきに比べて呼吸がだいぶ落ち着いたあかね。
・・・・やっぱ無理してたんじゃねぇか。
ちらっとあかねの方を見ると、あかねは前をまっすぐ向いて嬉しそうに笑っていた。


「ら、乱馬!・・・日の出っ・・・・日の出が見えるよっっ」
「え?」



つられるように前を見ると、真正面に白く輝く太陽があった。
・・・そういや最近こんな時間なんかに起きねぇから日の出なんて久しぶりだったな・・・・。
しかもこんなでっかいやつ、見るのは初めてくれぇかも・・・・・。
2人して丘の頂上でぼーっと日の出の様子を見入ってしまう。
でもそんくらい俺にとって・・・いやあかねにとってもすげぇものを見ている気分だった。



「ねぇ、乱馬・・・・・さっきは・・・・ありがとう・・・」
「・・・え?」
「乱馬、さっきわざとあんなこと言ってゆっくり走ってくれたんでしょ?・・・・私が無理して走っていたから」
「ば、バカっ////俺がそ、そんなことする訳ねぇーだろっ////あ、あれは・・・・っ////」
「ふふっ、もちろん私だって、柄にもなくあんたがこんなことするから驚いたけど・・・・」
「な、なんだよ////」
「・・・・・嬉しかった」


ちょっと最後の方の言葉はぎこちなく言っていたが、あかねは満面の笑みを浮かべてもう1度言った。


「だから・・・ありがとう、乱馬」
「・・・・・//////////」
「それにこんなに綺麗な日の出も見られたしね♪・・・・・・・・さ・て・と!帰ろっか♪」
「・・・・おう//////」


柄にもなく素直で可愛いこいつに照れながら、俺は自信なさげに返事をした。



「ほら!何してんの?追いてくよ?!」
「ちょ、お、おい!待てよっ」




必死にあかねの後ろを追いかけて行く中、あの太陽はすっかりと姿を現していた。

柄もなにもなく、真っ白に輝きながら。







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*管理人コメント*
コメットさんにいつも小説を戴いているお礼として贈呈させてもらいましたvvvv
実はこのお話、かなり苦戦したんですよぉ〜(T△T)
どうしてもラストが思い浮かばなくて、小説作り始めたのお正月の少し後ぐらいだったのに、UPしたのは1月下旬になってしまいました;;
なので出来上がった時はいつもの何倍も嬉しかったデスvvvv