不器用





「とぁ〜!!!!だだだだだだだだだぁぁぁぁぁ〜!!!!!」



いつもの様に台所からあかねの威勢のいい声が聞こえてきた。

もちろん料理を作ろうとしているのだが、香り、様子などからしてとてもその様には見えない。

家族一同その様子を見守りつつ、各自出かける用意をしていた。



「ねぇ、お父さん。いくらあかねの料理が怖いからってまた逃げるの??」

「そう言ってもねぇ。お父さんもう体が強い刺激についていかないんだよ、なびき」

「ここは1つ、1人犠牲者を置いていきますかな。天童君」

「あら、まぁ大変」

「わしは夜の仕事に行ってくるぞい♪」



こう言うと八宝斎はめずらしく冷や汗をかきながら夜のお仕事へと向かった

「やはりここは・・・・・だよね?早乙女君」

「うむ・・・あやつしか考えられないな。天童君・・・・」



こうしてこそこそと家族会議が行われた結果、ある1人があかねと共に留守番することになった

それは・・・・・



「な、なんで俺があかねと2人で留守番しねぇといけねぇんだよ!!」

乱馬だった。

満場一致で決まり、すでにかすみ、なびきは出かけてしまったらしい。

「乱馬!!お前はあかね君の許婚であろうが!!何かあった時に守れんでどうする!!」

「アホ!!守る前に俺があかねの手料理で死んじまうだろうが!!」

「た、たしかに・・・・・・」

「でも乱馬君、そぉ〜んなにうちのあかねが嫌なのかなぁ〜?」

どんどろどろどろ・・・・・・・

通常の顔の約10倍(いやもっと?)の顔になった早雲大妖怪が出てきた。

いくら慣れてきたとはいえさすがにまだびびってしまう乱馬

「わ、分かったよ!!分かったからとっとと行ってきてくれぇ〜!!」

「じゃ、よろしく頼むね♪乱馬君♪」

「しっかりせいよ!乱馬!」

そう言うと2人は修行(遊びに)行ってしまった。

「ったく・・・・これからどうすっかなぁ・・・・」

乱馬が考え込んでいると、台所からあかねが出てきた。

「あれ?みんなは・・・・?」

「お、おう!あかねじゃねぇか!み、みんなは出かけちまったよ!」

「え?そうなの・・・?残念だなぁ。せっかく作ったのに・・・。あ、乱馬ちょっと来て♪」

あかねは手招きをして「来て」「来て」と合図した。

乱馬の顔がみるみる青白くなっていく。

台所に入った途端、見たことも無いような料理が目に飛び込んできた。

「な、なんだ?これは・・・・・・?!」

「へへっ♪おいしそうでしょー♪」

満足気に話すあかね

・・・と、対称的な顔の乱馬

「さっ、どーぞ♪」

今回は自信があるらしく笑顔がこぼれる。

逆にそれが余計乱馬を不安にさせるのだが・・・・・



「い、いただき・・・・・・・・・・うぐっっ?!」

当然のごとく、最初の一口目で乱馬は完全にノックダウン

しかも舌がしびれるらしく、話すこともままならない状態にまでなってしまった。

「え・・・?」

「ほめぇな!!(お前な!!)ひゃひょひゅからあひみぐらいしてくひぇよ!!(頼むから味見ぐらいしてくれよ!!)」

「うん・・・あの、ほんとごめんなさい」



(お?今日はやけに素直じゃん)



「ほ、ほんとゴメン・・・。あ、あたし不器用にもほどがあるよね・・・・。」

あかねは顔をうつむけると涙をぽろぽろこぼした。

「?!・・・あの・・・」

突然の事態に困惑する乱馬

いつもなら逆にふっとばされる所だが、今日はかってが違う。



「私・・・もう料理2度とやらない」

「え?!・・・・な、なんでだよ」

「だってみんな私の料理食べただけで具合悪くなったり気絶したり・・・私自身そんな様子見るのはつらいのよ」

「な、何言ってんだよ!!それはいつものことじゃねぇか!!」

「・・・!乱馬には・・・乱馬には分からないよ!!」

「・・・・?!」

「乱馬は男の子だから分からないに決まってる!・・・・でも女の子は自分の好きな人のために料理とか家事とか何かしてあげたいって思うのよ!!だから私も毎回頑張ってきたけど・・・・・でも・・・・もういい!」

あかねは涙声で叫ぶとそのまま2階へと走ってしまった。



「・・・・あかね・・・・」




ーあかねの部屋ー



「ひっく・・・・ひっく・・・・・」

あかねは1人ベッドの上で泣き伏していた。
こうなることぐらい、初めから分かってた。分かってたはずなんだけど・・・。
今となっては、そんな淡い期待をしていた自分が恥ずかしくてしょうがない。

(もう・・・もう料理なんて・・・やれない・・・!!!)


と、そんな時、ドアのたたく音が聞こえてきた。
ゆっくり開けると、そこにいたのは紛れもなく・・・・・・・・


「乱・・・馬?」
「お、おう。入ってもいいか・・・・?」
「う・・・・ん」


そう言ってすんなり乱馬を部屋にいれるあかね
けど、もちろん2人にとって居心地のいい空気とは、到底言えなかった。
少しして、乱馬が意を決したように口を開く。


「あの・・・・さっきはゴメン」
「ううん、こっちこそいきなりあんな事言ってごめん。乱馬にあたったってしょうがないのにね。
 でもこれからは安心してよ、料理なんて作ることもないからさ」


うん。そう。
それが1番いいのよね、みんなにためにも。そして・・・私のためにも。
ずっと分かってきたことなのに・・・何で今まで出来なかったんだろう・・・?
わずかに残る希望を振り払うかのように、あかねはにこっと笑顔を見せた。





・・・しかし、乱馬はというと、あかねの予想外の答えを返してくるだけだった。

「・・・・・。お前・・・やっぱりいつものあかねじゃねぇよ。。。」
「え?」
「いつもだったらそんなに無理して笑わねぇだろ?」
「そんなこと・・・!」
「なくねぇだろ?」



・・・・その念を押されるような言い草に、悔しいとは思いながらも、それ以上は言い返せなかった。
・・・だってこんなことなかったって言うぐらい、今の乱馬の言ってることはあたってる。

無理してるのだってバレてる。 でもどうしてまた急に・・・・・・?
そんなあかねの思いを感じ取ったのか、乱馬は急にけらけらと笑いながら、あかねの頭にポンっと手を乗せた。



「ふーっ。ったく・・・・だから女って奴はややこしいんだよな」
「な、なんですってぇ〜?!」
「お?いつものあかねに戻ってきたか??
 ・・・だってよー、不器用はお前の特徴の1つだろ?確かに長所とは言えねぇけどそれをなくしたらあかねじゃなくなっちまうじゃねぇか。
 あかねはあかね、だろ?」
「・・・・・乱馬///////」
「ま、他に言えば寸胴とか凶暴なとこも特徴の1つだけどな♪」
「ふっ・・・・凶暴とはこのことかぁ〜!!!!!」

あかねの強烈パンチが乱馬に炸裂・・・・・・!!!!!
かと思いきや、偶然か、はたまた分かってのことか、寸前のところで上手くそれをかわした。



「ま、いつものあかねに戻ってよかったぜ♪それと・・ま、また作れよ・・・料理。じゃ、じゃあな!//」
「え・・・・?」

そう言うや否や、あかねの顔すらまともに見ずに、足早に部屋を出ていってしまった。
そんな乱馬の行動に疑問を感じつつも、最後の言葉が気になり、試しにあかねも1階へと降りてみる。
すると・・・・そこは、先程の料理がのっていたであろう皿が、全て空になっていた。
おまけに、その中の1枚にどこかの広告だろうか、そんな紙に乱雑な字で



     ”んまかった。・・・だからまた作れよ。今度は塩控えめのやつ”


と、書かれたメモが乗っかっている。

・・・・・乱馬らしいなぁ
そう思いながらも、その優しさに感謝せずにはいられなかった。
ちっぽけだけど、不思議と温かい。そんなメモ用紙を抱きしめながら。






ーその後ー





「うぅ、うぅぅ・・・・・・・・・・・」
「あ、天童ですけど。本日は1年F組、早乙女乱馬は腹痛のため休ませてもらいますね」


がちゃん

かすみが電話をきるとなびきが1階に降りてきた。
どうやらかすみの電話の様子を見た途端、これはまた何かあったのだと勘付き、急いで降りてきたらしい。



「かすみお姉ちゃん、乱馬君は・・・・・?」
「たぶん、2、3日は物があまり食べれないかもしれないわね」
「そう・・・・・乱馬君も大変だこと」






ー乱馬の寝室ー




「ね♪じゃあ帰ったら私がおかゆ作ってあげる♪」
「お、お前一体誰のせいでこんなめに・・・・・」
「だ・か・ら!名誉挽回のためよ!」
「お、おめぇ・・・・・」
「だって私に料理作って欲しいんでしょ?♪」
「それは・・・!///」

・・・まるで昨日の俺たちの会話を再現してるようだ、と乱馬は心の中で毒づいた。


「じゃ、学校行ってくるから!ゆっくり休むのよ!でないと・・・・」

「でないと・・・・?」

「極上のおかゆ作っちゃうから♪」

「や、やめてくれぇ〜!!!!!!」







-------初めて私の「不器用」を認めてくれた人

------------そして初めて私を夢中にさせた人

------------------それは・・・・・・私の大事な許婚。






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*管理人コメント*
「Benzina」管理人大野由佳さんに1周年のお祝い小説をプレゼントしました
私の大好きななびき姐さん。
そして由佳さんも大好きとのことだったので今回は久々になびき姐さんをメインに仕立てました♪
マンガでもありましたが、なびき姐さんのたまに(たまに?:笑)見せる優しさが私の大好物となっていますv
由佳さん、1周年おめでとうございました(^^)