存在
「ねぇ!ちょっと聞いてよ!この前彼氏がさー・・・」
「えー!何それ!!女をなめてるのかしら!」
「まったく、男の風上にも置いておけないわね」
昼休み
学校の庭先で、ある女子のグループが少し興奮気味に昼食を取りながらなにやら騒いでいた
その集団とはもちろん・・・・
「ね、あかねはどう思う?この男」
あかね達である
女子高校生には付き物ともいえる恋話
彼女等は今日もその話で盛り上がっているらしかった
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あかね?」
「え?あ、ゴメン!」
が、あかね本人はあまり耳に入っていなかったらしい
友人の呼びかけに思わず裏声で返してしまった
「ちょっとあかね〜。あんた聞いてた?今の話。」
「や、やだなぁ〜。ほら、あれでしょ?その・・・・えっと・・・・」
顔や手などを使って何とかごまかそうとしても、肝心の言葉が後に続いてこない
そしてついに参りましたとでも言うように
「ご、ごめんなさい・・・・」
と、照れ笑い混じりに謝った
「まったく・・・・あんたすぐぽけーっとしちゃうんだから」
周りの友人たちも、やれやれと言いながら笑う
するとその中の1人が、はっと何かに気付いたようにポンっと1つ手を叩きながら言った
「ねぇ、それともあかねは乱馬君以外の男は目に入らないんじゃないってこと?」
「なっ゛・・・・・///////」
「あ!そっか!!」
「やっぱりね〜」
その一言をきっかけに再び一気に会話が盛り上がる
一人一人がここぞとばかりに話しに乗ってきたのだ
「そうよね〜。何せ親公認の許婚だし・・・」
「一日中一緒の上に、同じ屋根の下で暮らしていて・・・・」
「ルックスも運動神経も人気も申し分ない。」
「そりゃ気になりもするわよね〜♪」
「ちょ、ちょっと待ってよ!私乱馬が好きだなんて一言も・・・////」
顔を真っ赤にしながら否定するあかね
そんな顔を見た彼女達に、あかねの言葉を信じる者はいなかった
「ほらほら、意地張らない♪」
「そ。そんなんじゃいつまでたっても結婚出来ないわよ?」
「だ、だから!///許婚って言ったって親が勝手に決めたこと・・だし・・・・/////」
更に顔を赤くしながら、顔を俯けるあかねに対して、再び友人がポツンと呟いた
「じゃあさ、あかねにとって乱馬君ってどんな存在なの?」
「へ?」
・・・・・・・・どんな・・・存在?
この質問はあかねにとって大変意外なものだった
今まで周りから「許婚」と言われれば、お決まりのように「親が勝手に決めたこと」と言い返す
きっとそれは乱馬にしても同じことだろう
が、自分にとってどんな存在か・・・・と聞かれれば、なかなか答えが見つからない
あかねが悩んでいる丁度その時、運が良いのか悪いのか、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った
「やば!次、確か移動だったわよね?」
「大変!急いで戻らなきゃ!!ほら、あかね!行こ!!」
「・・・あ、うん!」
なんとなく心にわだかまりが残る中、あかねは急いで友人の後を追った
「あーあ・・・・・結局のところどうなんだろ」
昼休み、そして午後の授業も終わり、あかねは帰り支度をしていた
ただ、昼休みが終わってからというもの、頭に残り続けているフレーズに悩まされる
自分にとっての・・・・乱馬の存在
友達・・・?と言っても何かピンとくるものがないし・・・・
家族・・・・・・?なんだけど、こうお父さんとかお姉ちゃんとは違うような・・・・・
じゃあ居候・・・・・?・・・でも、そんなの今更だし、もうちょっと深い感じはあるわよねぇ・・・・・・
まさか恋人・・・・・・・・・・・?・・・・・・・な゛っ/////何で乱馬が私の恋人なんかにっ/////////
「さっきから何1人でやってんだ?おめぇ」
はっとあかねが顔を上げると、目の前に乱馬が怪訝そうにこちらを見ていた
いくら廊下で待っていてもやってこないあかねにしびれを切らしたのだろう
めずらしくあかねを呼びに来たのだった
「ほら、ぼけーっとしてねぇでさっさと帰るぞ」
「あ・・・ちょ、ちょっと待ってよ!」
あかねは急いで机の上に置いてあったかばんを掴み、乱馬の後を急いで追った
「もう・・・・すぐ先に行っちゃうんだから」
ようやく追い着いたあかねだが、すでに校門を過ぎた辺りにまで来ていた
今日の乱馬はよほど機嫌が悪かったらしい
「おめぇがとろいんだろっ。ったく・・・・・」
「ふん!授業中いっつも寝てる、どっかのだらけた武道家さんに言われたくないわよ」
「俺のどこがだらけてるっつーんだよ!
修行も人一倍頑張ってる上に、こんなにも頭のキレがよくてルックスも・・・・」
「バカ!そういうことは自分で言うんじゃなくて、人に言われるんでしょ!・・・もう・・・。
・・・・・第一あんたに目標とか夢なんてあるわけ?」
まったく・・・・・・
そう思いながら、きっとあかねが乱馬に目を向けると、意外なことに乱馬はその質問に対し真剣に考え込んでいるようだった
しかもそれが少しではなく、長い時間掛けて悩んでいたので
自分のひょんな質問からここまで考え込むなんて、予想もしなかったので、何も悪いことはしていないつもりなのに
なんだか申し訳ない気持ちになってくる
あかねは少々おどおどしながら、話し掛けた
「あ、あの・・・乱馬?」
「んだようっせーなー、人がせっかく真面目に考えてるっつーのに・・・。
それと、さっき目標だとか夢なんてあるか・・・って聞いてたけど、俺にもそんぐらいあるよ」
「ふ、ふ〜ん・・・。で、その目標って?」
「そりゃやっぱり武道家についてだろ?
やっぱ・・・・あんなぐうたら親父でも、いちよここまでは育ててくれたし。
その・・・・・なんだ・・・。道場は継いでやってもいいかなとは思ってるしな。
もっともっと修行して・・・どんな奴にも負けねぇ最強の武道家になりてぇからよ。」
え?そうなの?
・・・・・・なんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・何だかんだ言っても・・・・乱馬も私と同じ目標持っててるんじゃない
なーんだ、そっかそっか♪
「・・・・・・・ふふっ」
いきなりスキップをしながら、機嫌良さそうに鼻歌を歌うあかね
「な、なんだよ、1人で笑いやがって。気持ち悪ぃな・・・・・・」
一方乱馬の方は、あかねがあんまりにも嬉しそうに笑うので、少しドキマギしながら憎まれ口を叩く
「あんたには関係ないわよっ、べーっ」
そんな乱馬の気持ちに気付くはずもなく、カチンときたあかねは
文字通り、乱馬に向かってべーっと舌を出すと、その途端にスキップではなく走り出した
「ちょ、おい、待てよ!ったく・・・いきなり走りやがって・・・・」
そしてそのままつられるようにして乱馬も走り出す
お互い特別話すわけでもなく、ただただ家に向かって走った
・・・・・・・・・・・・しばらくして、そろそろ家に近付いてきたという時、
ようやく歩き始めたあかねが、ふいに、こう呟いた
「ね。なれるといいよね、誰よりも強い武道家にさ。」
「・・・・・・けっ。
バーカ。誰に向かって言ってんだよ。
俺しかいねぇだろ、なれんのは。」
「あら、そんなこと分かんないわよ?
案外今あんたの隣りにいる女の子にころっと負かされるかもしれないんだから♪」
「・・・・・・・・女の子?不器用で寸胴で間抜けな奴の間違いじゃねぇか?」
そう言って、乱馬はにやっと意地悪く笑う
と、同時にあかねの顔がぷっと膨れた
「あ、それとすぐ顔を膨らませるっていうのも付け加えてな♪」
「ふーんだ!
なによ!せっかく同じ目標持ってるんだなーと思ってちょっと関心してたのに・・・・・
やっぱりあんたと同じ目標なんて持つんじゃなかった!」
「おぉ〜!
こっちからも願いさげだ!
大体許婚に誰よりも強い武道家になられたら、今よりもっと心配・・・・・・・・・っとと」
「え?」
途中で言葉を詰まらせ、尚且つ「やべぇやべぇ」と小声で言いながら口を手で抑える乱馬
相当都合の悪いことを口に出してしまいそうになったらしく、目を泳がせつつも、あかねの方にちらりと視線を向ける
幸いなことに、あかねは肝心なことに気付いていないようだ。
しかし・・・・・・・・
「ふ〜ん・・・・・・許婚ねぇ・・・・・・・」
「へ?」
「ま、今はそれでもいっか♪」
「ちょ、お、おい。なんだよ、それ?!」
「別に〜♪あんたには教えてあげないわよ♪」
「は〜?」
まったく意味が分からないという顔をしている乱馬をよそに
あかねは、ふふっと笑うと、再び鼻歌を歌いながら乱馬より一足先に家の門に入っていった
--------やっと分かった気がする。
「同じ武道家」
「許婚」
-------------私にとっての乱馬の存在は、この2つだってこと。そして・・・・・
------------------------とても大切な存在ということも。
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*管理人コメント*
「Love Communication」管理人茜幸美さんに相互記念の小説を贈呈させて頂きました。
ふと、あかねちゃんは乱馬君のことを友達としてはみてないんだろーなー・・・・・
と思ったところから始まったこの小説。
ただ許婚っていうのも、それなりの理由があってそう思う訳で・・・
でもやっぱりあかねちゃんにとっては大切な存在に変わりはないということを伝えたくて、このような形になりました^^;
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