2時間目
「乱馬ぁっ!!いつまで寝てんのよっっ!!早く起きなさいよっ!!」
朝の陽の光が部屋中に差し込む乱馬の部屋で、あたしは大声を出した。
少し早口で言ったから、ホントは舌を噛みそうになっちゃったんだけどね。
「あ゛ぁ〜…」
乱馬はそこまで言うとゴロンと後ろを向いて再びスヤスヤと眠りについた。
「乱馬ぁっっ!!早く起きなさいよっっ!!もうこんな時間なんだからっ!!」
あたしはそう言って乱馬の布団をカバッとめくった。
「……う゛〜ん゛……」
乱馬はそう言い、右手で目をゴシゴシとこすりながらムックリと起き上がった。
「もう少し早く起きてよね、毎朝毎朝。」
「あ゛〜?」
乱馬があたしの顔をぼォ〜っと見る。なんだかちょっぴりくすぐったい気分♪
「朝ごはんはやく食べてよね、かすみお姉ちゃん待ってくれてるんだからっ」
あたしはそう言うと、乱馬の部屋を出て、自分の部屋へと向かった。
乱馬は本っっ当に寝起きが悪い。平日は、あたしが起こさないとめったに自分からは起きてこない。
休日は早乙女のおじさまと朝稽古でもしているみたいだけど…。
昨日だって、乱馬が何回起こしても起きないから遅刻ギリギリだったんだからね。
今思えば先に行けばいいんだけど…もう乱馬も学校までの道を知ってるんだから案内する必要もないし…。
でも、いっしょに登校するのがあたしたちの日課…。
それから少ししてあたしが下へ降りていくと、居間では乱馬がしつこくごはんをほおぱっていた。
かすみお姉ちゃんは乱馬が食べ終わるまで、いつもかたづけをしないで待ってくれている。
「ちょっと乱馬っ。また遅刻しちゃうでしょっ」
かすみお姉ちゃんには何だか悪いなぁとは思ったけど、今日も遅刻するとバツ掃除だと言われているから仕方ないよね…
「わーったよ」
乱馬はあたしのことチラっと見てから
「ごちそうさん」
と言って、かすみお姉ちゃんに軽く頭を下げてから居間から出ていった。
「「いってきまーす」」
あたしと乱馬は2人で玄関を出た。
いつものことだから言う必要もないけど、なびきお姉ちゃんはとっくに家を出ている。
「気をつけてね」
とかすみお姉ちゃんが手を振ってくれていた。
「もう。毎朝毎朝…」
あたしは1人でブツブツ言いながらも通いなれた道を歩く。
「悪かったっつってんだろ。まったくしつけぇなぁ」
あたしの声が聞こえたのか、乱馬がしかめっ面でフェンスの上から あたしを見下ろす。
「だってあんたっていっっつも」
あたしがそこまで言うと、チリリンッと聞き慣れた自転車の音が耳に入る。
「ニーハオ 乱馬!」
やっぱり…あたしの予想通りの中国娘が自転車から飛び降りて乱馬に抱きついてきた。
「はっ離れろシャンプー!」
「嫌ある。乱馬 私の婿。これ当然」
そんなわけのわからない事を言って、ますます乱馬に抱きつくシャンプー。
いつも思うけど…乱馬も嫌ならハッキリ断るなりすればいいのに…
「乱馬、今日の放課後 猫飯店くるよろし。ひいばあちゃん新メニュー作たある」
「遅刻するから先行くわよ」
あたしはそう言ってすたすたと歩き始めたけれど、正直心中は複雑だった。
乱馬の本当の気持ちはどうなんだろう…
「おいあかね!待てよ!!」
乱馬はそう言ってあたしの事、追いかけてこようとしたみたいだったけど…
あたしがいつも抱える不安…
乱馬の本当の気持ちがわかんない…
そのままあたしは1人で教室まで行き、自分の席に鞄をおろした。
遅刻すれすれ、チャイムが鳴り終わる前に、
「何怒ってんだよ」
ちょっと低めで、いつもよりは小さな声があたしの耳に入る。
あたしが声の方を向くと乱馬がぶすっとしてこっちを見ていた。
頭にヘラが刺さったり、リボンが絡まったりしていたから、どうせ また右京や小太刀にもからまれたんだろう。
「何でもないわよ。ほっといて」
あたしはそう言って乱馬から目をそらした。
「なんでぇっ」
などとその後乱馬は1人でぶつぶつ言っていたが、あたしは相手にしなかった。
あんまり授業に集中できないまま1時間目の古典が終わり、あたしは軽く溜息をついた。
「あかねー」
あたしが顔を上げると、さゆりとゆかがあたしの方に歩いてきていた。
「どうしたの?2人とも…」
あたしがそう声をかけると、さゆりが
「あかね、次体育だよ」
と少しあきれた顔をした。
「さては乱馬くんと喧嘩でもしたんでしょ」
「べっ別にそんなんじゃ/////」
「はいはい。とにかく移動移動」
2人に背中をおされ、あたしは教室を後にした。
2時間目、体育の真っ最中。
いつもだったら大好きな体育にめいっぱい打ち込んで、友達といっしょに思いっきり汗を流しただろう。
でも今のあたしはどうもそんな気分にはなれなかった。
何よ…乱馬のバカ…
あたしがそんな事を考えていると、ドスっと目の前で鈍い音がした。
「え」
あたしが顔を上げるとさゆりやゆか、クラスの女の子たちが
「あかね、大丈夫!?」
あたしに近づいてきた。
しまった!今はバレーの試合中だったっけ!?
「うん、大丈夫。当たってないよ。ごめんね、あたしとって来るよ」
あたしはそう言ってコートから抜け、転がっていくボールを追った。
ボールの転がっていく先では、男子がバスケの試合をしていた。
少し右に目をやると、コートの外の乱馬の姿が目に入った。
どうやら今は他のチームの試合を観戦しているらしい。
乱馬はひろしくんと大介くんと何かを話していた。
「誰があんな奴!!」
乱馬がそう叫んだのがあたしの耳に入った。
「……………」
あたしは乱馬をひっぱたいてやろうかと思ったけど、早くボールを 拾わなきゃいけないし、乱馬のことをキッと睨んでやめにした。
その時あたしの追いかけていたボールが止まった。
でもあたしはそんなこと気ずくことはなかった。
何よ、乱馬のバカぁぁぁっっっ!!
と心の中で思いっきり叫んでたんだもん。
次の瞬間、あたしの目の前の世界が1回転した。
あとでゆかに聞いた話によると、あたしはボールにつまづいて、ひっくり返ったとか。
「あかねっ」
「大丈夫っ!?」
「あかねっ!!」
あたしが目を開けると、目の前にクラスのみんなが集まっていた。
「あ・大丈夫よ、ごめんね」
あたしはそう言って立ち上がったが足にづきッと激痛が走り、再びその場にへたりこんでしまった。
「あかねっ!?」
「ちょっとひねっただけ、なんでもないよ」
あたしはとっさに口から出任せを言い、笑顔を作った。
痛めた右足に力を入れて、立ち上がったあたしを再び激痛が襲う。
「天道さん、一応保健室に行って診てもらいなさい」
「…はい」
あたしは自分の足の不調がわかっていたから、素直にそれに従った。
「えーっと…誰か天道さんについていってあげてー」
「乱馬くん、ついていってあげなさいよ」
先生が言うと、即座にさゆりが言った。
「なっ、なんで俺がついて行かなきゃなんねぇんだよっ///」
「何言ってんのよ、許婚が怪我したのよ?」
「そうだ、乱馬。素直について行ってやれよ」
乱馬はゆかやひろしくんに散々言われて、
「しょうがねぇなぁ…」
とブチブチ呟きながら、あたしと2人で体育館を出た。
「痛むのか?」
廊下を無言で歩いていたあたしと乱馬。先に口を開いたのは乱馬だった。
「べっ、べつに」
あたしは何でもないように努めた。
…あたしの意地っ張り
あたまでそうわかっていても、
乱馬に弱味を見せたくない…
心ではそう強がりを言ってしまう…これもいつものことだけど…。
「ホントにどんくせぇよなぁーお前は。それでも武道家か?」
乱馬があきれたようにあたしの顔を覗いた。
「うるさいわねぇっ!わかってるわよっ!!」
あたしはつい右足に力を入れちゃって、顔をしかめた。
「いったっ」
思わずそう口に出しちゃったみたい。
「ったくしゃあねぇなぁ…」
乱馬はそう言うとあたしをひょいっと抱き上げた。
「ちょっとっ、乱馬っっ/////」
自分でも顔が赤くなっていくのがわかる。
「しょうがねえだろっ、保健室とおいんだからっっ/////」
乱馬は赤面しながらあたしを抱いて廊下を走り出した。
幸い、授業中だったためか誰にも見られてなかったみたいだけど…。
「これはおそらく捻挫だわねぇ…」
保健室についたあたしは先生に足を診てもらい、乱馬はすこし離れた所でボーっと座っていた。
「多分大丈夫だとは思うけど…一応お医者さんに診てもらった方がいいかもねぇ…ヒビが入ってたらいけないし…」
先生はちょっと苦い顔をした。
「…そうですか…」
いつものことだけど…なんであたしってこんなにどんくさいんだろう…。
なんかもう…嫌になっちゃゃうな…
「今すぐ行ってらっしゃい?確か天道さんの係りつけのお医者さんは小乃整骨院だったわよね?」
先生はあたしの顔を覗き込んで言う。
「あっあの、今すぐ行かなくちゃダメですかっ!?」
あたしは先生の“今すぐ”という言葉にビックリして、思わず大声を出してしまった。
「天道さんが大丈夫なら別に今すぐじゃなくてもいいけど…」
「じゃあ、4時間目終わったあとでもいいですか?3・4時間目は出席したいので…」
「うーん。別にいいわよ。じゃあお昼休みに車で送ってあげるから」
「お願いします。どうも有難うございました」
あたしはそう言って先生に頭を下げた。
「失礼しました」
あたしと乱馬は保健室を出、体育館への廊下を再び歩いた。
あの後、みんなが心配してくれたりしたけど、相変わらず乱馬とはギスギスした空気が流れていた。
そのあげく、乱馬がさっきあたしに浴びせた言葉。
「病院でもどこでも勝手に行ってこればいーじゃねえか。俺にはカンケーねぇよ」
いつもの事かもしれないけど…それでももうちょっと言い方があるんじゃない?
しかしあたしの足は相変わらず痛んだ。
やっぱり素直に2時間目に東風先生のトコに行けば良かったかなぁ。
今、あたしは保健の先生に送ってもらい、小乃整骨院にいる。
「う〜ん。おそらく骨に異常はないけど…一応気を付けておいた方がいいかもしれないからまた明日の朝おいで」
東風先生がニコニコしながら言う。
「ありがとうございます。東風先生」
「……………」
東風先生はあたしの顔を見てなにかを考えているような顔をした。
「先生?」
「あかねちゃん、元気ないね。乱馬くんと喧嘩でもしたのかい?」
「え…?あたし別に…」
「乱馬くんは言ってることと思ってることが逆だから…あんまり気にしない方がいいよ、あかねちゃん」
そう言って東風先生は窓の外を指差した。
電柱の影から赤いチャイナ服と黒いおさげ髪が見え隠れしている。
まちがいない、乱馬だ。
「…乱馬…」
「じゃ、あかねちゃん、お大事にね」
東風先生はあたしの顔を見て、またニッコリと微笑んだ。
「どうも有難うございました」
あたしは軽く頭を下げて、小乃整骨院を後にした。
その後、意地っ張りなあたしたちは結局お互いに声をかける事もできず、気まずいまま1日が終わってしまった。
次の日の朝。
相変わらず乱馬は起きてこなかった。
いつもならあたしが起こしに行くところを、今日はおばさまが起こしに行った。
まあ親子なんだから、むしろこっちの方が普通なのかもしれないけど…。
数分後、
「ふわぁっーーー」
と乱馬があくびをしながら廊下を歩いてきた。
あたしたちの間に気まずい空気が流れる。
「あ・乱馬」
あたしは意を決して重い口を開いた。
「あん?」
「今日さきに学校行ってて。東風先生のとこ寄ってくから」
「待ってよ…ぅ///」
乱馬はござを濁して真っ赤になった。
あたしには乱馬が待ってようかと言ってくれようとしたのがわかった。
「いいわよ。1人で大丈夫だし、2時間目数学だから、乱馬出席しないとまずいわよ」
ホントは待っててほしかったのに…。素直じゃないあたし…。
いつもより30分ほど遅れて、あたしは家を出た。
かすみお姉ちゃんがついて行こうかと言ってくれたけど、丁重にことわった。
かすみお姉ちゃんには悪いと思ったけど、だって東風先生が…ね。
朝だというのに東風先生のところはこんでおり、診察を終えたとき、時計の針はすでに10時近くを指していた。
東風先生も「骨に異常もないし大丈夫」とおっしゃってたし、実際足の痛みも昨日よりずっとひいていた。
今ちょうど2時間目がはじまったとこかぁ…
あたしはそんなことを考えながら、整骨院の入り口を出た。
そこに見慣れた人影が見えた。
「…………」
立っている人がこっちを向く。ふと目が合った。
「乱馬…」
「先生なんだって?」
「あ・もう大丈夫だって…」
あたしは乱馬の思いがけない問いに一瞬戸惑った。
「悪かったな」
乱馬がボソっと呟いた。
いつから彼はここにいたんだろうか。
授業をほおってまであたしを迎えに来てくれたんだろうか。
その時、あたしの心にあった不安がはじけたような気がした。
乱馬のほんとの気持ち。
それはきっと…あたしと同じ…
「ありがと 乱馬」
「何が」
「なんでもないっ」
あたしはそう言って無邪気に笑って駆け出した。
彼は真っ赤になりながらも
「こらっ、まだ走るなって!!」
そう叫びながらあたしのあとを追ってきた。
嬉しい
あたしはそう思わずにはいられなかった。
師走の2時間目の空の下、冷たい風が吹いていた。
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*管理人コメント*
コメットさんから投稿小説として頂きましたvv
コメットさんの書かれる小説はとっても可愛くて好きなんですよ☆
自分の気持ちには気づいているのに素直になれない自分
絶対負けたくないと変な意地を張ってしまう自分
そういう乱Xあらしい世界がとっても上手く表現されてますよね^^
素晴らしい小説書きさんですvvv
ありがとうございました☆
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