許婚





「あー…疲れたっ…」
 あたしは部屋のドアを開けるとベットに倒れこんだ。
しばらくするとチッチッと規則正しい時間を刻む音だけがきこえてくる。
…結局…いつもこうなるのよね…
今日はクリスマスイヴ。いつものように右京とシャンプーと小太刀が乱馬と誰がすごすかもめて…乱馬は逃げてどこかに行っちゃって…
最後はうちでみんなでパーティーになったのよね…
その騒ぎがさっきまで続いてたんだけど…
…でもまぁこれも悪くないわよね…楽しかったしね
あたしは重い体を起こして机に置いてあった雑誌を広げて見る。
“今年はこれで決定!おすすめクリスマススポット”
でもやっぱり…乱馬と2人きりですごしたいと思わないわけじゃない。
雑誌に目を通すと色とりどりのクリスマスツリーやライトアップされた遊園地の写真が目にとまる。
 あたしは雑誌をとじて再びベットに体を投げた。
乱馬、もう寝たのかなぁ…酔ったお父さんたちにだいぶからまれてたみたいだし…。
いつからか、寝る前に乱馬のことを考えるのが習慣になってるような気がした。
そんな自分がなんだかおかしく思えて、一人苦笑する。

 とその時、窓からひゅっと風が吹きつけた。と思ったと同時に何かが頭にあたる。
「…?」
たんっと窓が閉まる音がして、部屋にはくしゃっとまるめられて投げ込まれた紙が転がった。
こんなことするのは乱馬だろう、なんて思いながら紙をひろげてみる。
“道場で待つ”
ぶっきらぼうに書かれた文字を見てあたしはおかしくなってふきだした。
こんなことしなくたって口で言えばいいじゃないっ…
あたしはそっとドアを閉めて道場へ向かった。

「乱馬、いるの?」
「しっ」
あたしが声をかけると道場の奥から乱馬が出てきて顔の前に人差し指を立てた。
「ちょっと来い」
乱馬は道場の奥へと足早に歩く。
「乱馬?」
奥まで行くと乱馬はにっと笑って地面に置いてあったシートをめくった。
「あっ…」
そこには小さな雪だるまが2つ置いてあった。
3日程前の夜、少し雪が降ってたけど次の朝はもう雪は残っていなかった。
「この前言ってただろ、クリスマスに雪が積もればいいなー、とか。
まぁ積もってるわけじゃねぇけどさ。」
…この前帰りに何気なく言ったこと…覚えててくれたの…?
「溶けねーようにさ、かすみさんにたのんで冷凍庫に入れといてもらったんだけどさっ///」
「………」
あたしは言葉が出なかった。
乱馬がこんなに自分のことを考えてくれてた
そのことが嬉しくて何を言ったらいいのかわからなかった。
「あかね?」
「あのっ…ありがとっ…」
とっさに出てきた言葉はそれだけ。
「おぅっ」
でも乱馬はうなずいてくれた。
「あれっ…?」
あたしは片方の雪だるまをじっと見て手に取った。
その雪だるまにはおさげがついていたのだ。
「ひょっとして…これ、乱馬?」
「…ま・まぁなっ…」
あたしは雪だるまをもとの位置に戻した。
となりにはちょっとだけ小さな雪だるま。
「じゃぁこっちは…」
あたし…///?

「ね、乱馬」
あたしはひとしきりしてから乱馬をよんだ。
「なんだよ」
「きっとこの雪だるまも…許婚同士なんだよね」
あたしは乱馬の顔を見上げた。
「あかねと乱馬って名前のなっ」
乱馬はあたしの頭をぽんっとなでてよっと伸びをした。
横顔は真っ赤に染まってたけど…ね

 素敵なクリスマススポットにあこがれないわけじゃない
 お互い素直になりたくないわけじゃない
 想いを伝えたくないわけじゃない
でも今は“許婚”、このままの2人が心地いい。









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*管理人コメント*
コメットさんから頂きましたv
季節はもうXmas。
2人で過したいという、2人の願いは見事叶ったんですねv
雪だるまを許婚同士に例えるのもすごく可愛くて・・・♪
「結婚」等のこれからの未来を考えるよりも、今の自分と相手がいればそれでいい。
なんて純粋な恋なんでしょうっ(感涙)
素敵な小説ありがとうございましたv