マフラー



「うーん…」

あたしは、唸りながら姿見の前に立った。
あちこち角度を変えながら、何度も眺めてみるけど…やっぱり長い。
長過ぎるわ、これ。


タンスの整理をしていて、ふと見つけた『ロングマフラー』。
ちょと前に流行ってたから、あたしも買ってみたんだけど、結局あまり使わなくってタンスの肥やしになってたのよね。
今年は、どうかなぁ。
使えるかしら?
そんな感じで、あたしはマフラーを巻いて、鏡の前に立ってみた。
けど…。
ピタリと動きを止めると、あたしの足元くらいまで、ブランと垂れ下がってくるマフラー。
もう、ほとんど地面ギリギリ。
ブーツとか履いても、ちょっとキビシイかもって長さ。
やっぱ、ダメかぁ。あたし、そんなに背も高くないし。
あーあ、勿体ないなぁ。
何気なく、何回もマフラーを首に巻きつけながら、あたしは、ぼんやりと考えていた。
この頃、急に寒くなってきたし。やっぱり、マフラー欲しいよね。
去年使ってたヤツは、もう何年も前から使ってるし、結構毛玉とか出来てたしなぁ。
新しいの、買わなきゃダメかぁ。

「だって、これじゃあ、使えないもんね」

つい吹き出しながら、あたしは、独り言を言った。
鏡の中のあたしは、あの長いマフラーを全部巻きつけて、まるで体の上に円盤が乗っかってるみたいになっている。
これじゃー、頭より首の方が大きいじゃない。
それに、ここまで巻きつけると、暖かいのを通り越して暑いくらい。
「アハハ、やっぱりダメね。これは」
あたしは、笑いながらポーズを取って、マヌケな自分の姿を眺めていた。
こんなの、乱馬が見たら大笑いよね。
なんて思ってると、不意に”カチャリ”と音がする。
ま、まさか…。
クルッと振り返ると…やっぱり。
乱馬が、ドアを開きかけた姿勢のまま、あたしを見ていた。

「…なにやってんだ、オメー」

笑いはしなかったけど、思いっきり呆れた表情で、あたしを見ている乱馬。
まだ、笑ってくれた方が、マシだったわよっ。
なんて、心の内で呟きながら、あたしは、慌ててマフラーをほどいた。
「ちゃんとノックしてよっ!!着替え中だったりしたら、どーすんのよっ!」
「今のも、いちおー、”着替え中”か?」
わたわたと手を動かしているあたしを見ながら、乱馬が、からかうように言う。
もうっ、人を小馬鹿にしてっ!
「うるさいっ!」
ほぼ、マフラーをほどき終えたあたしは、怒鳴りながら、乱馬の方に体を向けた。
すると、その勢いに乗って。マフラーがブンッと音を立てて、宙を舞う。

ベシッ。

「いてっ」

「やった♪」

あたしは、思わず小さな歓声を上げながら、ニッと笑った。
あたしの動きにつられるように、マフラーが乱馬の頬にジャストヒット。
不意を突かれた乱馬は、マフラーの先についた”ぼんぼり”に引っ叩かれ、不満そうに口を尖らせている。
ふーんだ。
人のこと、からかった罰よ。
それにしても、こーゆー使い方も出来るのね。
結構、便利じゃない。
やっぱり、今年の冬は、これを使おーかな。
なんて思いながら、あたしは素早く体を回転させて、もう一度、乱馬にマフラーをけしかけた。
「いでっ。こらっ!」
「あははっ。まだまだ甘いわねー」
あたしが体をひねると、左右から入れ代わり立ち代わり、マフラーが乱馬に襲いかかる…なんて大袈裟なもんじゃないけど。
ダメージだって大したことないけど、なんだか、すっごく『勝った』って気がするわ。
すっかり楽しくなってきたあたしは、調子に乗って、何度もマフラーを振りまわした。
けど、さすがに、いつまでもそんなものが通用するはずもなく。
あっさりと、乱馬は、マフラーを捕まえてしまった。
何度も振りまわして、すっかり緩んでいたマフラーは、スルリとあたしの首から離れる。
「ったく、いい加減にしろっ!」
マフラーを持ったまま睨らんでくる乱馬に、あたしは、悪びれもせず笑ってやった。
あー、スッキリした。
すると、それを察したのか。
乱馬が、やれやれとため息をつきながら、部屋に入って来た。
そのまま、手に持ったマフラーを、ビローンと伸ばしてみている。
さすがに、乱馬の腕でも、端から端まで届かない。
それほど長い物体を、しげしげと見つめながら、乱馬がポツリと呟いた。
「オメー、こんな長いもん、どーすんだよ」
「どーするって、マフラーなんだから、首に巻いて使うに決まってるじゃない」
あたしがそう言うと、乱馬は一瞬複雑な表情を見せてから、あたしにマフラーを投げよこした。
「やめとけって。ただでさえ、どんくせーのに。こんなもんぶら下げてたら、からまって転ぶのがオチだぞ」
「…うるさいわね」
余計なお世話とは思いつつも。
実際、乱馬が言うように転びかけたり、友達に踏まれて首が締まりかけたり。
そんなことを何度かやっていたあたしは、あまり強く言い返せなかった。
そーいえば、そのせいで、使うのやめちゃったんだっけ。
でも、やっぱり勿体無い。
色とか、結構気に入ってるし。
ほとんど使ってないから、毛糸も十分キレイだし…あ、そうだ!
じーっとマフラーを眺めていたあたしに、ふと、名案が浮かんだ。
「これ。ほどいて、かすみおねーちゃんに編み直してもらおうかな」
そうよ、毛糸は、まだ十分使えるんだし。
かすみおねーちゃんなら、きっと上手にやってくれる。
「そしたら、あんたの分も作ってもらえるかもよ」
そう言いながら、あたしは、乱馬にマフラーを巻きつけた。
それでも、まだ十分余る長さ。
余った分を自分に巻きつけながら、あたしは小さく頷いた。
ほーら、やっぱり。ゆうに、二人分はある。
「ね?」
同意を求めるように、乱馬を見ると、何故か顔を赤くして、こっちを見ている。
え?どーしたの?
キョトンと首を傾げると、あたしと乱馬の間で、マフラーが小さく揺れる。
それを見た瞬間、やっと、あたしは自分のしている事に気が付いた。
や、やだっ!
あたしが慌てて身を引くと、乱馬もつられたように後ずさる。

「んっ」

「ぐえっ」

すると途端に、たるんでいたマフラーがピンと張って、あたしたちの動きを止めた。
同時に引いたせいで、綱引きみたいになっちゃったわ。
こ、これじゃ、首が締まっちゃう。
息苦しくて、あたしは、倒れこむようにベッドに手をついた。
同じように苦しかったのか、乱馬も、前かがみに体を倒す。
けど、ホッとしたのも束の間。
マフラーは、元通り緩んだけど、さっきよりも、もっと密着してる事に気付いて。
あたしは、またもや、慌てて体を起こそうとした。
けど、そんなあたしの肩に、乱馬の手が伸びてくる。
え?え?な、なにっ?
押さえつけるように置かれた手に、びくっとしながら乱馬を見ると。
乱馬は、赤い顔のまま、目線を逸らしながらポツリと呟いた。

「じ、じっとしてろ。取ってやるから」

「う、うん」

小さく頷くと、乱馬の手が、おずおずとあたしの後ろに回る。


…なんか、抱き締められてるみたい。


触れてないのに、あったかい空気が伝わってきて。
ものすごくドキドキしながら、あたしは思った。


やっぱり、ほどくのやめよう。
いつか、『二人で使う日』が、来るかもしれないから。

…なんて、ねv





-------------------------------------------------------------------------------
*管理人コメント*
私の家「小さなハート」の10000HIT記念に「ほわ茶」管理人日菜月さんがくださった代物ですvvv
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜//////////(壊
あの日菜月さんから頂けただけでも充分なのにこんなに可愛らしくてしかも乱Xあらしい小説で・・・・/////
もはや壊れるしかありませんっ////(ぇ?
あかねちゃんのさりげない大胆な行動に照れる乱馬君♪
その様子をみて初めて自分の行動に気づくあかねちゃん♪
とっても可愛いですよね♪
私のハートにジャストヒットでございますよ(笑)
こんな素敵な小説ありがとうございましたvv