目指すものは



「大丈夫か?」

「うん、平気よ・・・心配しないで」

時間は午後10時、二人はすっかり辺りが暗やみに包まれた人気の少ない道を寄り添い歩いている

う〜ん、やっぱあかねのやつちょっと無理しすぎだよな

顔色の優れないあかねを横から覗き込む

「どうしたの?」

「いや・・・なんでもねえ」

こいつは意地張るしな・・・でも俺が余計なこと言える立場じゃね〜し

何故あかねが疲れているのか?その理由は単純明快だ
『大学受験』
世の高校生から浪人生数多の若者を苦しめるそれをあかねが控えている
乱馬はその運動神経を買われ日本でも有数の大学から誘いを受けあっさりとその進路を決めてしまった、唯一悩んだのが許婚でもあり恋人のあかねと一緒に居る時間が格段に減る事だった
そんな事で悩んでいた乱馬にあかねが
「そんなのあたしが乱馬と同じ大学に入ればいいことでしょ?」
と、自信満々で言った為あかねのその言葉を信じてその誘いを受けてしまった
だがあかねの言った事・・・それは相当困難な事を乱馬は知らなかった

「おやすみ」

「しっかり休めよ」

力無くあかねは笑って部屋へと入っていった

「あかね・・・」

乱馬が誘いを受けた大学は一般的な学生が受験で入ろうとすると相当な学力を求められていた
あかねとて頭は良い方だなにしろ学年の定期試験で常に10位以内をキープしている
それでもそこへ入るのは困難である為学校の後予備校に通い大変な努力をしている
そんな生活がもう3ヶ月も続いている本番まで後二ヶ月を切った今あかねの疲労はピークに達していた


「なあ、あかね日曜どっかでかけよーぜ」

「そんなの・・・」

乱馬には思うところがありあかねを誘ったのだがあかねにそんな余裕は無い
その誘いは嬉しいが受験生に遊ぶ暇は無いと思っている

「ちっと息抜きにさ、あんま根詰めてっとはかどらないんじゃね〜か?な?」

結局乱馬に押し切られる形であかねは了承し、次の日曜日に二人は数週間ぶりのデートに出かける事になった

受験生に休みはない・・・そんなバカな、受験生にだって休みぐらいある
というか一日も休まずにそれが出来る人間が果たしてどれだけいるのであろうか?
もし出来たとしてその人は確実に試験に受かるだろうか?そんな事は決してないのが
『大学受験』であるような気がする
なまじあかねは持ち前の根性でそれを成してしまうだろうだから乱馬はあかねを誘ったのだ
1人の力で乗り越えられぬもの・・・それが『大学受験』だと思う
支える人とそれに応える人、それがあって初めて上手く行く場合もある
あまりにも不確定要素の多すぎるモノの為皆不安が募るのだ
話がずれた、当の二人は・・・

「きれ〜い」

すっかり寒くなったこの季節だが乱馬はあえて映画や遊園地等でなく
景色が綺麗な国立公園へとあかねを連れてきていた

「あかね、悪かったな」

乱馬の呟きは無理にはしゃいでいるのがバレバレなあかねの耳にしっかりと届いた
「悪かった」何に対してのその言葉かあかねには理解できなかった、だから・・・

「なにが?」

「全部さ、俺があっさりあの大学の誘いを受けた事・・・目的もなくそれを受けた事さ」

乱馬はあかねが自分と共に居たいという理由で一生懸命頑張るあかねを見続けて罪悪感が募っていた、目標に向かって頑張るあかねが眩しかったのもあるかも知れない

「乱馬が気にすることじゃないわ」

「でもよ・・・」

乱馬が続けようとするその口をあかねが人差し指で止めた
そしてニコッと笑うと

「あたし2年前に乱馬が家に来てくれなければきっと今も辛い思いして目的もなく大学受験してたわ・・・だから乱馬には感謝してるの」

「あかね・・・」

「乱馬は何度も私を助けてくれたし私を・・・本当の私を見て愛してくれてる、だから頑張れるの」

あかねがそう言う顔は日の光に照らされここ数ヶ月乱馬が見たことが無いほど綺麗な物だった

「俺、目的もなく大学行くのっていいのかなって・・・あかね見てて思ったんだ、だから情けなくてしかもそのせいであかねが苦労してんの見てらんねえんだ・・・」

「私言ったでしょ、自分の目的の為に頑張ってるって・・・乱馬と一緒に居たいから頑張れるって。だからそんな事気にしないのっ!」

「そっか・・・」

その後二人は公園内を散策して家路についた
あかねはしっかりとリフレッシュ出来たようで乱馬が今回あかねを連れ出した事は大成功だったといえる
だが乱馬は悩みを一つ抱えたままだった





「乱馬・・・いる?」

春一番が吹き荒れるあかねの受験もとうとう一週間後というこの日に乱馬の部屋の戸があかねの声と共に叩かれた

「おう」

転がって漫画を読んでいた身を起こしあかねを出迎える

「入るね・・・」

あかねは身を起こした乱馬の隣りに腰掛けた

「どうした?」

「乱馬さ言ってたよね・・・自分には目的があって大学に行くわけじゃないって」

「おう」

「私分かったんだ・・・っていうか思ったんだけど・・・」

「・・・あかね?」

「目的があって大学に行くんじゃなくて目的を探す場所が大学なんじゃないかなって」

あかねは乱馬の肩に寄りかかって言う、乱馬も完全に漫画を手放してあかねの話しに耳を傾けている

「あたしの今の目的はね、乱馬と一緒の大学に通って二人で一緒にその目的を探すこと」

「そっか・・・」

「ま、乱馬との最大の目的は会った時から決められちゃってたけどね♪・・・へへ」

最大の目的・・・それに思い当たる節のある乱馬は少し顔を赤くしつつも否定すること無く、そっとあかねの肩に手を回して抱き寄せる
思えば大学の誘いを受けるとき親父達が反対した事を思い出す
その最大の目的が延期になるせいだろう、結局今の二人は仲睦まじ過ぎるため
その目的は心配しなくても果たされるという次女の一声でしぶしぶ親父達は了承した

「でさ、乱馬の目的・・・ううん、大学でしたいことは?」

あかねの問いかけに乱馬はふっと笑って

「あかねと一緒にその目的ってのを探す事さ」

自信満々・・・いやそんなものではなくもっと別の何かを秘めた瞳であかねにそう言うと軽く口づけた

「「ん・・・」」

久しぶり、でも何度も交わしてきたそれは暫く終わることがなかった

他の受験生がカリカリするこの時期に甘い時間を過ごすあかねと乱馬だが
あかねも乱馬も目指すもの、目的を見つけ心が満たされた事は間違いない
しかもそれを共有するものが愛する人であれば言うことは無い
この二人は間違いなく『二人』で『受験』をするのだその過程も含めて
だから当然・・・





試験当日

「じゃあ、待ってるから行って来いよ」

「うん♪」

試験会場にも二人で訪れるのだ・・・受験生には目の毒、うざったい甘い空気をまき散らしながら

付き添い者の控え室に乱馬はその日一日籠もっていた、90分ごとに席を空けながら





あっという間に時は流れ、季節は春すっかりと暖かくなったこの季節、二人は正装をして道場に並んで立って居た

「あかね・・・頑張ろうな、ずっと二人でさ」

「うん、二人でねっ約束だよ♪」

「あかねは守ってくれたからな」

「当然よ、だから乱馬も・・・ね?」

「愚問だぜ」

そして二人は微笑みあう、これから始まる今までとは別の生活に向けて
それでも今までと同じように二人一緒に・・・

あかねは大学に見事合格した・・・だがそれは決して1人の力で叶ったものでは無かっただろう
そもそも1人の力でどうにかなるものでは無い
二人で合格したのだ・・・二人の為に・・・





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*管理人コメント*
「Love Game」の管理人ネドピエロさんから我が家の20000HITのお祝いに戴きましたvvv
「受験」というリクをさせてもらったんですけど・・・・
いや〜・・・もうラブAの乱Xあですねっ///ほんとっ////
原作から2年後・・・の2人かな?
私も去年高校受験を経験しただけあって、すごく2人の心情が伝わってきました^^
もっとも、大学受験は高校の時より比べ物にならないくらい辛いらしいんですけど・・・・煤i=□=)
2人が2人の為に2人で乗りきった大学受験・・・・
やっぱりこの経験は二人にとってすごく大きなものになったと思います(^^)
もう大人に近くなった2人にドキドキしっぱなしでした♪
こんな素敵な小説、本当にありがとうございました!!!!