始まる時




二人は出会ってから毎日殆んどの時間を共にしている。
学校の通学路、クラス、そして武道の稽古の時間やご飯も一緒…
更には住んでる家まで同じである。
そんな二人の出会いはあまりにも唐突で、理不尽で、そして、運命的であった。



季節は桜舞う4月
中学での三年間を二月程前に感動的に卒業し風林館高校の正門を真新しい制服に身を包んだ三人の少女が通り過ぎる。
まだ幼さの残る彼女達はこれから始まる高校生活に胸を踊らせている。
三人の周りには三人と同じように真っ新な制服に身を包んだ新一年生達がこれもまた
三人と同じように胸を躍らせながらこれから毎日通うことになる高校の門を通り抜けてゆく。

「ネェ、ネェ!!」

髪の毛を後ろで束ねている少女が三人の真ん中を歩く少女に弾むような高い声で話しかける。

「なに?」


春を迎えたばかりで多少冷たい感じが残るがそれでも十分に気持ちよさを感じることの出来る風をその身で受けていた少女は
友人に話しかけられその気持ちよさを中断され少し残念な気もしたが友人の女の子の方に目を向けて答える。
女の子はそんな少女の気持ちを知ってか知らずか
そんな事関係ないよ、といわんばかりに陽気に話し続ける。

「あかねはさ〜、高校ではなんか部活とか入るの?中学の時はなんにも入ってなかったじゃない」

「う〜ん、どうだろ?稽古あるからな〜」

少女は父親が拳法の道場を家業としている影響か、それとも単に本人が好きだからか
幼い頃から拳法、武道を嗜んでおりまじめでやると決めたらやり通す少女の性格も手伝い
クラブ活動が必修である小学校はともかく部活が自由参加な中学では他のみなが部活に精を出す時間を修行といっては言い過ぎだが拳法の稽古に当てていた。

「そっかぁ、でもダメよ、あかね。」

と、突然女の子は立ち止まった。少女ともう1人の友人の女の子も同じように足を止める。

チッ、チッ、チッ、なんて音を立てながらポニーテールの女の子があかねの目の前に指を一本突き立てる。

「なにが?」

なにがダメなのかよく分からない少女は素直に疑問の声をあげる。
が、それを聞いた女の子は「はあ〜」とため息をつく、少女の左隣りでもう1人の友人も同じ様な仕草をしている。

「部活っていうのはね・・・」

ここで思いっきりタメを作る女の子。

「部活っていうのは?」

少女がきょとんとして聞く。
すると左右、両脇から少女の二人の友人が声を揃えて

「「青春の1ページを作る大切な場所!!そしてなんといっても出逢いよ!!出逢い!!」」

「・・・」

あまりにも見事にこんな台詞を一字一句ずれずに一致させる親友二人に思わず少女は目を丸くしてしまう。
その後も二人は高校生活における部活の素晴らしさを教えてくれたが少女には結局イマイチその辺を良く理解することは出来ずじまいだった。
そんな感じできゃあきゃあ騒ぎながら三人は年季が入っていてボロ臭さも感じさせるが彼女達にとっては新しい校舎へと足を向けていった。



「おい、クソ親父!!」

「なんじゃ乱馬?」

東京という大都市に明らかに馴染んでいない二人組が街を信じられないスピードで疾走している。
青年というにはあまりにも幼く見えかといって少年というにはあまりにも大人っぽい、
まさに、青少年という年代に当てはまる男の子と小さめのメガネが似合わない手ぬぐいを巻いた中年親父が激しく言い争っている。
男の子は赤いチャイナ服にお下げ髪というこれまた少し風変わりな格好をしている。

「いい加減に、日本に帰ってきた理由を教えやがれ!!」

相当な速度で走っているというのに息一つ切らさずに大声を張り上げる男の子。

「え〜い!お前は黙ってワシの後についてくればよいのじゃ!!
・・・むっ!?イカン!!このままでは到底間に合わんぞ!!急ぐのじゃ乱馬!!」

「てめえというヤツは・・・」

この後、二人は天下の往来で取っ組み合いを始めた為に中年親父が知っている二人の目的に間に合わなかった事は言うまでもないだろう。



「やっぱり学校選び、しくったかな〜?家から近いし学力的に丁度いいからココにしたけど・・・」

入学式を終え、帰路へとつく三人組の少女の内の1人がいきなりそんな事を言いだした。
高校生活が始まったばかりなのにこんな事を言っている様で大丈夫なのか心配だが、
他の二人も同意見のようでしきりに、うんうん、と頷いている。

「大体さ〜・・・」

と、またもやいきなり愚痴りだした。
どうやら少女の友人達はいきなりという事が十八番の様である。
だが、それも、その愚痴の内容を知れば致し方ないという気がしないでもない。
あの後、校舎へと向かった三人はまずクラス分けの張り紙を見に行き、よっぽど縁があるのかなんなのか一学年8クラスもあるこの学校でめでたく三人とも同じクラスになったまでは良かった。
この学校ではクラス替えが無い事を三人とも知っていた、
これで高校生活の三年間をまた三人で同じクラスで過ごす事が出来るのだ、嬉しくないわけがない。
ただ、その後が問題だった。
元気良く登場したクラスの担任はまるで幼児・・・とまでは言わないが小学生の様な女の子(20代だろうが年齢不詳、それを聞いた男子生徒は壁にめり込んだ)だったし。
どうもこのクラスには入学式からいきなり無断遅刻をやらかした海外帰りの生徒もいるらしい。
入学直後かた間違いなく問題児候補である。
更に更に、新入生全員と生徒会の一部の先輩達、そして、学校の先生全てが揃った入学式ではウクレレを持って派手なアロハを着こなし頭からは何故かパイナップルの木が生えている校長が登場。
そしてその校長は「たっちー」なる、剣道部主将と大乱闘を繰り広げ入学式は滅茶苦茶になってしまいなんだかうやむやのうちに入学式は終わっていたのだ。
これでは、新入生が今後の高校生活に多大な不安を持ってしまうのは耶無を得ないだろう。

「それにして、一体あの先輩なんだったのかしら?」

「変態よ、変態!!入学式が無茶苦茶になったのもあの人と校長が原因だし」

「・・・やめて、思い出させないで、気持ち悪いわ」

女の子達が話しているのは最低の学校生活初日をなんとか精神力で乗り切り
三人が家路に付こうと入るときは意気揚々として通り抜けた正門に差し掛かった時の出来事である。


「おおっ、なんと美しい!!」

「「「はあ??」」」


そう、入学式で校長と大乱闘を繰り広げた「たっちー」である。
どうやら、この「たっちー」いま、この瞬間に少女に一目惚れをしたらしくいきなり少女に抱きついてきた
(もちろん少女は自慢の拳法で一撃で沈めた)
上にその後、約三十分以上に渡って少女に名前は?家は?等と質問責めにした。
そして、三人は今、さっき解放された所である。

「全く、あかね・・・悪いことは言わないから、サッサとイイ男見つけなさい。
それならきっとあの変態も諦めるわ」

「男って・・・さゆり・・・あんたねえ」

「さゆりの言う通りだわ、あかね、本当になんでもいいから部活にでも入って出逢いを求めなさい」

「ゆか、あんたまで・・・」

この会話をきっかけにあかねと呼ばれた少女はまたしてもさゆりとゆかという友人に
本日二度目となる部活の素晴らしさ講義を帰り道中聞かされる羽目になってしまった。


「はあ、もう、二人ともしつこいんだから・・・大体、男なんて・・・」

散々友人二人の講義を聞かされたあかねは友人達と別れやっと、そう、本当にやっと一人きりになり思わずため息をついた。
そして、「男」、「出逢い」という友人達の言葉を思い出しもう一度、そして最初のため息より幾分深いため息をついた。

「東風先生のトコ行こうかな」

そう呟くと、顔を上げてあかねは少し歩くペースを上げた。



その頃、東京のど真ん中で犬も食わぬ取っ組み合いを繰り広げていた珍妙な二人組はある大きな家の前に並んで立っていた。

「やっと・・・遂に、遂にココまで辿り着いた・・・」

「ここか?なんか汚ねえ家だな・・・ん?無差・・・」

手ぬぐい親父はなにやら感極まって涙を流し、男の子は家の主人が聞いたら激怒しそうな失敬な事を呟き、何かに気付いた丁度その時、
二人の目の前の大きな門扉がギギギと音を立てながら内側から開いた。
そしてその中からこの家の主人と思われる長髪にチョビヒゲという これまた手ぬぐい親父に勝るとも劣らないヘンテコな中年男性が現れた。

「誰だ?随分、下劣な風貌のおっさんだな・・・」

「て、天道くん・・・」

男の子の正確だが初対面の(そうでなくても)人間に言う台詞とは思えないほどの暴言(大体自分もあまり普通とは言えない格好)を聞いた男性はムッと顔をしかめるが
続いてすぐに自分の名を呼んだ人物に目を向けると大きく目を見開いた。

「さ、早乙女くんかい?」

「親父の知り合いか?まあ、そりゃそうか、ココが目的・・・って・・・オイ」

男の子がなにやら納得している脇で
「早乙女く〜ん!!」
「天道く〜ん!!」 などといい年したおっさん二人が涙を流して思いっきり抱き合っている。
それを見た男の子は思いっきり引いている、
また、偶然通りすがった近所の奥様がこの光景を目撃しご近所に「天道さんは・・・」等と触れ回った為、
後日、この家の次女が大激怒している。

「なにやってだか・・・気持ちわりい・・・」

元々みっともない父親だが普段より更にみっともない父親の姿に男の子は思わず頭を抱えてしまう。
そんな男の子に手ぬぐい親父と抱き合っている他称・お下劣中年親父がふと男の子に目を向ける。

「それじゃあ・・・君が乱馬くんかね?」

「あ、ああ・・・どわっ!!」

答えた瞬間男の子はおっさんに抱きつかれた。
そしてまた涙を流しながら今度は
「うんうん、口と態度がデカ過ぎる気もするが、我が天道道場の跡取りには丁度良いだろう」
等と男の子には意味不明な事を呟いている。
とにかく、乱馬と呼ばれた男の子が今、一番望むことは道場の跡取り等という発言の真意を知ることよりもなによりもとにかく早く暑苦しいこの状況をなんとかしてくれという事だった。



「それじゃあ、先生」

「あ・・・」

あかねが幼い頃からいきつけの接骨院が見える所まで歩いて来た丁度その時、接骨院からロングヘアーの女性が出てきた。
続いてメガネをかけ、甚平の様なものを着た男性が姿を表す。
女性は男性にお辞儀をするとあかねのいる方向とは逆の方へ歩いて行った。
男性は彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「お姉ちゃん、来てたんだ・・・」

あかねはその光景を黙って見つめた後小さく呟いた。
男性が「ああ〜、かすみさん、かすみさん」等と浮かれつつ建物の中へと引っ込んで行くのを見た
あかねは先程よりもハッキリとした深いため息をついた。

「・・・帰ろ」

暫くその場に立ちつくしてあかねだったがいつまでもそうしていてもしょうがないので家に帰ることにした。
幼い頃から何かあると笑ってあかねの話を聞いてくれた男性はいつからかあかねにとっての想い人となっていた。
その想い人に今日の鬱憤を全て聞いて貰おうと足を運んできたが先程の様な光景を目にしてすっかりとその気分も無くなってしまった。
結局あかねは鬱憤を少しでも晴らそうとここへ来たのだが来る前より余計に気落ちして家に帰ることになってしまった。


「ん?誰かお客さんかな?」

玄関にあかねが見たことの無い靴が二つ並んでいる。
それも下駄と体操靴の様な少し変わった靴だ。
まあ、父のお客さんだろうとあかねは特に気にするわけでも無く居間へと向かって行った。

「ただいま〜、ねえ、お父さん?誰かお客さんが来てるの?」

居間には父の姿はなく長女がお茶を片づけ、次女が寝そべって雑誌を読みふけっていた。

「おかえりなさい、あかねちゃん」

長女、かすみがあかねに気付き振り向いた。その手には3人分の湯飲みがおぼんに乗せられている
接骨院であかねが見た女性はこのどこまでも優しく、マイペースな姉だった。
あかねは先程の光景が少し引っかかりそれを顔に出さないようにしながら「お父さんは?」と話しを逸らした。
それはどうやら成功したようで父は二人の客人と道場の方にいると いう事を教えてくれた。
どうやらさっきの光景をあかねが見ていた事はばれていない様だ。
「ありがと」と一言姉に告げるとあかねは着替える為に自分の部屋へと向かって行った。



「それじゃあ、軽く手合わせをしてみようか?」

「ああ、いいぜ」

乱馬を抱擁という手段で熱烈に迎えたお下劣中年親父こと早雲は道場で乱馬と向かい合った。
手厚くもてなされた乱馬達は居間で一息ついた後道場へと案内されていた。
父、玄馬と早雲は何かしきりに話したりしていた。乱馬にはその会話の内容は聞こえなかったが
自分の父親の事だどうせロクな事は考えていまいとあまり気にしないようにした。

「それじゃあ、ワシが開始の合図を・・・」

手ぬぐいを巻いた親父、乱馬の父、玄馬が乱馬と早雲の二人の間に立つとすっと手を挙げた。

「では・・・ごほんっ・・・はじめっ!!」

玄馬の手が振り下ろされた瞬間、乱馬と早雲はもの凄いスピードで床を蹴った。



「あっ、あかね丁度良かったわ」

「なに?」

武道の稽古をしようと道着に着替えたあかねが庭に出ていこうと戸に手をかけた時タオルを二、三枚手にしたかすみがあかねを呼び止めた。

「これ、お父さん達に持っていってくれる?身体を動かしてるみたいだから」

「え〜・・・あたしこれから稽古しようと・・・それにお客さんと一緒なんでしょ?
やだな・・・」

普段なら姉の頼み事を断ったりはあまりしないあかねだが今日は一日ロクな事が起こっていない為
多少気も立っていたので露骨に断った。

「私、これからお買い物に行かなきゃならないの、あかね、行ってきてくれる?」

そう、にこやかに言われた瞬間あかねは目にも止まらぬ早さでかすみの前から姿を消した。

「ふふ、さてと・・・」

あかねが向かったであろう方向に目を少しやるとかすみは少し笑い声を漏らして買い物の為の準備をしようとその場を後にした。
その手からタオルは全て消え去っていた。



玄馬のかけ声と共に両者は弾ける。
早雲がまず先手を取った。
伊達に道場主ではないという事をそのまま現すかの様な素早い突きを乱馬に向けて放つ。
が、乱馬はそれを右手で払いのける。
そして、突きを払いのけられた早雲は体勢を少し、ほんの僅かに崩す。
高段者同士の手合いにおいてそれは大きな隙であった。
早雲が体勢を崩してから立て直すまで1秒あるかないかぐらいである。
乱馬はその隙を見逃さずに右手で早雲の突きを払いのけ、右側に傾いた重心に逆らう事なくそのまま左のハイキックを繰り出した。
体勢を立て直したばかりの早雲にはそれをいなす事もかわす事も出来ずに右の側頭部に強烈な蹴りをモロに受けた。
勝負あり、である。

数分後、乱馬の蹴りを受けて昏倒していた早雲が身を起こす

「いや〜、乱馬くん強いね・・・私もまだまだ現役だとは思っていたのだが・・・」

「おじさんこそ、その年齢で予想外の早さだったぜ」

「天道くんも3人も子育てしながらよくあの早さを・・・」

格闘家、拳法家というのは一度手を合わせるとこうも早く打ち解けるものなのか?
出逢ったばかりとは思えない雰囲気を醸し出しながら談笑している。


そして、その時は訪れる


「お父さん、タオル持ってきたわよ」

ガララッ、と道場の戸を空ける音の直後に少女の透き通る声が道場に響き渡る

「誰だ?」

音のした方に首を回す乱馬

その後、二人は長きに渡り騒動を巻き起こす事になる








あれから一年・・・

「乱馬ーーーっ!!今日こそアタシの作った料理を食べて貰うわよーーーっ!!」

「ぜーーーーっってえっくわねえーーーーっっ!!!!」








あとがきという名の喜劇 (やはり言い訳&お祝いの言葉ver.)


「みかんさん、『小さなハート』一周年おめでとうございます!!」
乱&あ
「「おめでとうございます」」

「度々お世話になっているみかんさんへのお祝いになればと思いこれを書き上げました」

「そういえば、珍しく時間をかけてたな?」

「お祝いだったからなのね」

「一周年という事で大体どんな内容のものになるのかは書く前から予想はしていたものの
ここまでありきたりになるとは少し申し訳ない気がしますが・・・」

「あなたは本当にこういう原作を逸脱した出逢い物が好きだからね」

「う〜ん、もちろん一番好きなのは原作の二人なんだけど・・・」

「お前は、全て壊す可能性があるからな」

「・・・」

「だから、設定をいじるわけね」

「・・・無難でしょ?」
乱&あ
「「・・・逃げ」」

「返す言葉もございませぬm(__)m」

「また勝ったな?」

「ええ、いつも通り圧勝」

「君たちね・・・まあ、いいや、何はともあれみかんさん本当におめでとうございます。
そして、お疲れさま&ありがとう!!」

「なんかお別れの言葉みたいだな・・・」

げしっ!!


「これからもファンとして長く長く『小さなハート』を楽しみたいので是非とも頑張って下さい」

「お体にお気を付けて下さい」

「・・・・」ぴくぴく









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*管理人コメント*
「Love game」管理人ネドピエロさんに我が家の1周年を記念した小説を戴きましたv
ちょっとパラレルちっくなお話☆
私パラレル小説は嫌いじゃないので、こういう展開好きなんですv 出会いのパターンだって色々♪
でも結果は同じ。。。
人生に「もし・・」という言葉がないように、結果だってやっぱり一緒v
それと最後のネドピエロさんと乱Xあの会話。
すごくおもしろかったですv
素敵なお話本当にありがとうございました(*^-^*)