同じ星空の下で
「おーい、乱馬。そろそろ寝るぞ」
親父の声が静かな山奥にこだました。
夏休み。
となれば、恒例の山篭り。
天道家を離れて、親父と二人で修行にきて、すでに1週間がたつ。 べつに気にしちゃいない。
それなのに、思い出すのは決まってあかねのことだった。
出掛けにケンカをしてきた。
そのまま家を出てきたのがよくない。
だからきっと、頭から離れないんだ。
最後のあかねの顔ばかりが頭にやきついている。
上目遣いで軽くにらんで。
でも瞳は、わずかに潤んでいた。
涙をため、口をきゅっと結んで黙っていた。
ケンカなんかしたら、お互い自分からは謝れない意地っ張りだ。
仲直りなんてちゃんとしてるわけじゃない。
いつも知らないうちに普段の二人に戻っていた。
でも今回は、そのケンカのまま家を出てきちまったから、だからよけいに気になってしまうんだ。
あかねがまたヘンなことでやきもちやいて、文句ばっか言うから、つい売り言葉に買い言葉で。
傷つけちまうとわかってて、いろんな言葉が飛び出してしまう。
おれだって、ホントはあんなことを言いたかったわけじゃねーんだけどな。
あかね。
泣いてたな……。
見上げた夜空は、満天の星空。
ちかちかと瞬いていた。
瞬間。
流れ星が滑り落ちる。
「なかなおり、できますように」
あたしはそっと、小さな声でつぶやいた。
星のあかりにさそわれて、まっくらい部屋でカーテンを開いたのだった。
乱馬が山篭りへ行って、一週間がたつ。
出掛けにケンカをしてしまったことが、ずっと気になっていた。
自分のやきもちだと、ひとりになって冷静になればわかるのに。
どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
意地を張って言い返せば、必ずケンカになってしまうとわかっているのに。
憮然とした表情で出て行った乱馬の背中が、脳裏に焼きついて離れない。
怒っていたのかな。
あたしも確かに言い過ぎたし。
何も山篭りに行くって時に、わざわざケンカなんかしなくたってよかったのに。
ばかだなぁ。
今頃何をしてるんだろう。
もう寝ているだろうか。
いつ戻ってくるのだろう。
あたしのことなんて、思い出しもしないだろうか。
だとしたら、哀しい。
なのに乱馬の前では素直にはなれない。
軽く溜め息をついて、あたしはカーテンを閉じた。
ベッドに入り、むりやり目をつぶる。
乱馬が帰ってきたら、何事もなかったように微笑もう。 おかえり、と。
-------------------------------------------------------------------------------
*管理人コメント*
「Love Communication」管理人茜幸美さんから相互記念に戴きましたv
私の「夜の2人」という何とも危なっかしいリクエスト(笑)を快く受けてくださった幸美さん。
そして出来上がったのは、純粋小説!
これです、コレ。
私こういう透き通ったお話大好きなんですよv
お話の中身はちょっぴり切なくて、それでいてお互いの視点があって・・・というものですけど、全体的に綺麗ですよね。
離れていても、共有の時間を過せる・・・・
「素敵」と言う他ありません(^^)
乱馬君が帰ってきてからの2人の展開も楽しみですv
素敵なお話、ありがとうございました!
|