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第一章 夢の中の少女

どこまでも澄み切った空の下、新緑が眩しい大地の中で一人の少女がこちらを見て笑っている。
声を掛けてくる訳でもなく、手を招く訳でもなく、ただ優しく微笑みかけてくれていた。
しかしどこか寂しそうに笑う彼女を見ていると、胸がぎゅっと締め付けられてしまう。だから余計に目が放せない。
思わず駆け寄ろうとすると、何故だか彼女はすっと一歩下がってしまった。
まるでこれ以上自分との距離を縮めてはいけない、とでも言うように。
 
そして一言、聞こえるか聞こえないぐらいの小さい声で言った。
 
『……見つけて……早く……』
 
 
ならどうして離れてしまうんだ、そう叫ぼうとしたところでいつも夢が覚めてしまう。
はっと気がつくと、いつも通り視界には見慣れた天井が映った。
少し視線を横にずらすと、カーテンの隙間からうっすらと朝日の光を確認出来る。
しかしもう先程の少女の顔は記憶にほとんど残っていない。今感じるのは、気持ち悪いほどに肌にまとわりつく寝汗で塗れたシャツだけだ。
 
おもむろにベットから起き上がると、そのままシャワーを浴びに浴室へ直行する。
普段からいちいち朝一でシャワーなどをする習慣はないが、あの少女の夢を見たときだけは別だ。
いつもはかかない寝汗をびっしょりかいて、少し呼吸も乱れている。まるで体が激しい運動でもしたかのように。
しかし夢は夢。現実のものではない。
アスランはそこまで現実主義者という訳でもないが、かといって夢想家でもない。
どちらかといえば、目に見えないものは信じない主義である。
だからこの夢も、悪夢ではないこそ1つの精神状態の疲れか何かによるものだと考えていた。
 
きゅっとシャワーのコックを捻って、お湯を止めるとさっさと浴室を出て体を拭く。
先程のべたつきは嘘のようになくなっていた。
と、ここでようやく同居人の友人が声を掛けてくる。
 
「……また朝からシャワーなんて……あの夢でも見たの?」
 
「…キラ……」
 
まだ眠たそうにあくびをしながら、浴室の隣にある洗面所で顔を洗う準備をする友人に、不思議とバツの悪い思いを感じる。
別にキラにこの夢の内容を知られようが知られまいが、まったくもって自分に害はない。
しかし何故か後ろめたいような、これ以上夢の中の彼女とのことを触れて欲しくないような…そんな感情に陥る。
どうもあの夢を見ると、調子がおかしくなるのだ。
 
「相変わらず同じシーンだけ?顔は?名前とかも言ってこないんでしょ?」
 
「…あぁ。全くもっていつもと同じパターンだよ。見つけてくれ、って言ってすぐに消えてしまう。で、起きたら最悪の状況だ。」
 
既に朝から1つ余計に洗濯物が増えたことは確定している。
確かにシャワーを浴びることで、体はより目を覚ましてくれるけど。
ただいい加減夢ごときでこんなに振り回される自分に苛立ちを募らせていった。
 
 
 
 

それから数日後、アスランやキラ達が住むオノゴロ島はいつになく穏やかな気候で、また季節風である春風が吹いていた。
丁度お昼休みの時間、気持ちの良い風が外で昼食を取っていた2人の間をすり抜ける。
今日はいつもの食堂ではなく、少し校舎から離れた庭園付近での食事だ。
アスラン達が所属するオーブ工学院高校は国立でありながらも、同大学と同じ敷地内にある。
そのため学校自体の敷地は通常の高校よりも数倍あり、また様々な設備が整えられていることでも有名だった。
今2人がいる庭園も例外ではない。
主に機械技術やプログラミングなど工学技術などを専門にしている学校ではあるが、その範囲は広いため植物学なども専攻出来る。
そのため様々な植物を栽培、研究している場所が必要になったのだが、この庭園がまさにその施設の1つなのである。
研究施設とはいえ、庭は庭。
切り開かれた大地に、新緑が芽吹くこの時期の風景は何とも言えない。
たとえ高校生でも貴重な植物が保存、栽培されている特別庭以外は、出入りが許されていた。
 
その庭の一角に、アスランとキラがいるのである。
…というのも、だんだんと気温が上がり、外で食べる方が気持ちいいということでもあるが、キラが授業で出された課題であるこの庭園にある植物の種子についての研究をやっていなかったため、
結局アスランと協力して調査をすることになったからだ。
もちろんアスランは既にこの課題を終わらせてはいたが、怒りつつも毎度キラの課題の手伝いを行っている。それは、2人の仲も過ごした時間も長く深いことを示していた。
 
「あーあ、せっかく天気がいいのに課題なんて…」
 
右手に昼食のサンドイッチを持ちつつ、左手と視線はパソコンのキーボードに向かう。
課題の提出期限は数時間後だが、キラ自身に焦りという文字は見られないようだ。…既にお決まりのパターンとなっている。
 
「その課題に俺を巻き込むな、と何度言ったら分かるんだ!大体キラは…」

「あーうん、うん、分かってるよ。次からは気をつけまーす。」

「…俺はもう、次から手助けなんてしないからな…」
 
そしてこのような会話も、お決まりのパターンとなってきていた。
もちろんアスランもキラも、この”次”がどのようなことになるかは分かりきっているけども。
 
もぐっと、最後の一欠けらを口に放り込むと、キラは小型パソコンを片手にすくっと立ち上がった。
実際に植物の種子を採取し、パソコンに情報を取り込むためである。
アスランはキラのパソコンから送られてきた情報を、自分のパソコンで解析し、またキラに転送する。
そうしてから、いつものハイスピードの情報処理能力でレポートを作成していくのだ。
 
「じゃ、アスラン。僕はちょっとそこら辺で植物を採取してるから、そっちもよろしくね。」

「よろしくね、じゃないだろ。ったく…」

 
笑顔でひらひらと手を振りながら庭園の奥に進むキラを見送りつつ、アスランは大きく溜め息を吐いた。
ピッ、と自分のパソコンにも電源を入れて、キラからの情報を待つ。
 
まったく、こんなにいい天気の中で何をしているんだか…俺達は…。。
先程から吹く春風は何とも心地良い。まるで少し昼寝でもしていきなよ、と誘っているかのように優しく、温かい。
重くなってきた瞼を何とか押し上げようとした時、ふいにあの声が聞こえた。
 
 
『…はや………く……見…つ………て…』
 
 
 
がばっと、倒れ掛かっていた上体を起こすと少し向こうに人が立っているのが見える。
離れているため見えにくいが、此方を見て笑っているというのは確認出来た。
…そう、あの夢のように草原の中で。儚く笑う、一人の少女。
 
 
「君は…!一体誰なんだ!」
 
 
今度こそ見失わないように、夢が覚めてしまう前にありったけの声で叫ぶ。
彼女に、自分の声は届いたのだろうか。
 
 
『………我、オーブと共にあらんことを……』
 
「…え?」
 
 
ゆっくりと開かれたその口から発せられた小さな声。
その声をもう1度聞きたくて、もっと近くで聞きたくて、足を一歩踏み出す。
瞬間、彼女もろとも景色がぱっと消え、気がつくと目の前にキラが驚いたように顔を覗きこんできていた。
 
 
「…アスラン大丈夫?かなりうなされてたけど…」
 
「…あ……」
 

さぁっと自分の周りを通り抜ける風によって、おぼろげだった意識がだんだん覚醒していく。
キラから少し視線をずらすと、どこまでも澄み切った空が見えた。
体は優しい草達によって包まれている。
 
「……うなされて…?…って俺、もしかして寝てたのか?」
 
「そんなことにも気付かなかったの?君。……結構疲れが溜まってるんじゃない?」
 
課題の手伝いをやらせている僕の台詞じゃないけどね、とキラはアスランの隣にすとん、と座りながら苦笑いした。
 
「……って今何時だ?!課題は終わったのか?!…俺、キラからの情報を見る前にきっと寝てしまったから……すまない。」
 
「いいよ、全然。ってかさっき先生から連絡があって、今日は急用で会えないから提出は明日でいいって言われたんだ。だから大丈夫だよ。」
 
「……そうか。。」
 
それでもアスランには申し訳ない気持ちの方が強かった。
確かにキラの課題だとは言っても、結局引き受けたのは自分だ。それを寝て放棄することなど、”ど”がつく程生真面目なアスランが気にしないはずもなく。
 
「明日って言っても、後でやっても変わらないんだろう?今日は寮に帰ってからも課題、手伝うよ。」
 
「ほんとに?!…って言いたいところだけど、今回は自分で何とかするよ。アスランも疲れてるみたいだしね。…また次回、頼みたいし。」
 
「キラ!」
 
こんな他愛も無い会話、時間が凄く楽しい。
あはは、と親友同士は肩を揺らして笑い合った。
 


それから少しして、再び寝転がったアスランが再び空を見上げながら口を開く。
思い出すのは先程の夢の少女。
 
「…さっきさ、また見たんだ。あの夢を。」
 
「夢…?あぁ、あの女の子のやつ?」
 
それでか。アスランがうなされていた訳は。
合点がいくというように、キラはアスランにバレないように相槌を打つ。
 
「あぁ。今度こそ何故俺の夢に何度も現れるのか確かめたかった。だから叫んだんだよ、誰なんだ?って」
 
「へぇ〜。それで?その子は何だって?」
 
「…我は、オーブと共にあらんことを…」
 
「へ?」
 
「だからそう言ったんだよ、彼女が。そうしてまた夢が終わった。」
 
はぁーっと、先程キラに向けた溜め息とは別に更に重いため息を吐く。
やっと新しいヒントを得たのに、彼女の核心に迫るものは何も出てこない。むしろ謎が深まったと言った方が正しいだろう。
 
「…でもさ、その言葉どーっかで聞いたことあるんだよね。ね、アスランもそうでしょ?」
 
「そう言われてみればそうだな……。聞いたというより、見たというような……」
 
身近と言えば身近で、離れているといえば離れている場所。
そう、学園内で言えば図書館のように少し校舎とは離れているような……。。。
 
「分かったぞ!図書館だ!」
 
「え?図書館?」
 
「あぁ、そうだ。あの図書館の前にある石碑の言葉だよ!オーブ史の教科書にも載っている、あの有名な台詞だ。」
 
「…石碑……。あ、それってウズミ・ナラ・アスハの有名な台詞のこと?」

 
---ウズミ・ナラ・アスハ
ここオーブにおいて知らない者はいない、という程有名な歴史上の人物である。
今から約150年前、地球連合軍に占領される前に戦争の早期終結を願って国内の最新軍事施設を爆破、自身も責任という名目でその地で命を絶った。
しかし戦前の治世は素晴らしく、オーブで最も繁栄していた時期とされる。
反アスハの閣僚達の売国行為により、オーブの体制は内面から崩れ、地球連合軍に占領されたものの、軍事力や工学技術はでは世界でも類を見ないほど進歩していた。
そのため、ウズミはその軍事力、技術力をその身で死守したのだと教科書には記されている。
そのウズミが残した最後の言葉こそが、アスラン達の言う”有名な台詞”なのだ。
 
『我、オーブと共にあらんことを…』
 
その言葉と共に散ったオーブの獅子の姿は、占領下に置かれたオーブ国民に死しても尚、勇気と希望を与え続けていたという。
絶望の中でただ1つ光る、誇り、という星を見るように。
戦後150年が経ち、ようやく独立を取り戻した今でもこの言葉は国民の胸に深く刻まれている。
だからこそ、2人の中にも意識をしていなくてもすんなりと頭の隅にこの言葉が置かれていたのだった。
 
 
「で、その言葉の由来は分かったけどどうするの?……あ、まさか…」
 
先程の会話とアスランの様子で察したのか、キラの顔に嫌な汗が流れる。
 
「あぁ、そのまさかだ。」
 
珍しく、キラと同じ様に黒くさわやかな笑顔を向けると、アスランはそのままゆっくりと体を起こした。
 
「…あの言葉なんてどこにでも残ってるよ!別に図書館じゃなくても……」
 
「でも”図書館”なら、何かを調べるには充分な場所だろう?」
 
「ア、アスラン!君、僕があの空気が好きじゃないのを知ってて言ってるでしょ?!」
 
「別に着いて来い、なんて言ってないだろ。ただ、俺の帰りが遅くなるだけだ。」
 
「……アスランもさ、白そうに見えて実は結構黒いよね。課題のこと、覚えてるくせに。さっきは気を使ったけど、あの量を一人で終わらせられる訳ないのも知ってるでしょ?」
 
「…じゃあ、決まりだな。」

 
がっくりと隣でうなだれるキラを横目に、アスランは立ち上がるとすたすたと歩き始める。
それに慌ててキラがついていった。
 
「課題のこと!絶対忘れないでよねー!!!!!」
 
 

 
3月8日、晴れ。しかし突然の夕立にご注意下さい。
そんな本日の天気予報と共に、アスランとキラの運命はゆっくりと動き始めていた。
 





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*管理人コメント*
最近になって気付いたのですが、私は長めの小説を書く時には必ずと言っていい程、
   最初にアスキラシーンを入れてますね。
それだけ後々にキラにも重要な役をやってもらう、ということではあるんですが…。。
実は単体ではキラが一番好きかもしれない、というのはここだけの話です(笑)
恋愛は書けないけど、友情アスキラは大好きです!
次回も2人のお話中心になるかと思いますが、もちろん今回のメインであるカガリも登場…する、かも?
私自身、早くアスカガの絡みが書きたくてうずうずしております。。あすかがー!あすかがー!!